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オッペンハイマーのmimagordonのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
5.0
ノーラン、またすごい映画を作ったな。

本作は恐らくアメリカ映画史上、少なくともアメリカ資本の劇映画において最も原爆と真摯に向き合った作品だろう。日本の惨状を「オッペンハイマーの一人称視点」を理由に映さないのには日本人として疑問が残るけど、オッペンハイマーが目を背けた事実はアメリカ社会が目を背けてきたこととほぼイコールであるし、「想像できるか」というノーランから世界、特にアメリカへの挑戦とも受け取れる。アメリカが原爆投下を「正当化」できるのは、アメリカが「戦勝国」であるからに他ならない。オッペンハイマー同様、アメリカという国は目を反らせる立場にいるのだ。

ノーランは、原爆開発がもたらした脅威と、それに伴うさらなる軍拡競争への危機感をオッペンハイマーという人間の葛藤で描くと共に、大量破壊兵器の開発や使用のあり方が簡単に政治的思惑で意思決定されてしまうことへの警鐘を、モノクロで第三者視点から描かれるストロースの公聴会を通して訴える。すなわち歴とした反戦、反核映画であって、オッペンハイマーの伝記映画ではない。オッペンハイマーの物語を描くだけなら、ストロースの公聴会のシークエンスは一切必要ないからだ。ウクライナ侵攻に加え、全米公開からほぼ三ヶ月後に始まったハマスによるイスラエルへのテロ攻撃とガザ地区へのジェノサイドが激化し、第三次世界大戦が現実味をもって見えてしまっている今、我々はオッペンハイマーが始めてしまった「世界滅亡への連鎖反応」を止めることができるのか。今こそ、世界が歴史から学ぶ時だ。この映画を完成させたクリストファー・ノーランの制作者たちに敬意を表したい。
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