daisukeooka

ボイリング・ポイント/沸騰のdaisukeookaのレビュー・感想・評価

4.0
人生に起きうる全てのトラブルを抱えたシェフがレストランで奮闘する1時間半をワンカットで見せる!となれば「見ようじゃないの」となってしまう。ここまで主人公のシェフのみならず、彼を囲むほぼ全ての人間たちに何らかのトラブルの種を抱えさせ、シェフを追い込んでいく容赦なさは見事と言って良い。シェフの過去の友人や、そいつが連れてきた料理評論家、この二人の食べ方からして手癖が悪くて汚い。男の方はフォークに歯を立てて「ガチっ」と音を立てたりさえしている。ホール係が直面するワインマニアのパワハラは、まさにイビるために店に来てるとしか思えない。こんなしょうもない細かいストレスを敷き詰めるだけ敷き詰めて、破滅への道を舗装している。

ということで正直、見ているのがキツイ…まさに自分が仕事の中で様々なトラブルに巻き込まれまくっている状態を思い出してしまって、ひたすらしんどかった。あれが繁華街の飲食業のリアルだと言われてしまえばそうなのかもしれないけど、リアルを追求するならドキュメンタリーでやればいい、とさえ思ってしまう。フィクション映画ならではのマジックやファンタジーを見る前に期待していて外されたことは確かだ。

マジックとなれば「いま背負っているすべてのトラブルが、実尺1時間半の間にすべて見事に解決していく!」というホンを期待した。ファンタジーとなれば「どんなにトラブルに押し込まれても(スー・シェフがシェフを勇気づけるときの言葉のように)一歩、そしてもう一歩を踏み出すきっかけが見つかる!」という発見を期待した。それが両方とも無かった。

ワンカットには「ひたすら緊張感とストレスを上げていく」という効果が確かにあったと思う。けれどワンカットであるだけに、主人公がなにか揉め事を収めに厨房から離れたりして、その時間が長いと「そんなに離れて大丈夫か?」を通り越して「いやこの尺は無いだろ、やっぱり無理あるな」とさえ思ってしまう。

あれだけの密度の映画を、動きも道具も照明も音も全て合わせてワンカットで撮り上げる、というスタッフキャストの技量や胆力は半端ない。けど、その方向をもうちょっとで良い、「上向き」にしてほしかった。せっかくの繁盛レストランの映画なのだ。観終わった後で美味いメシでも食いに行く気分にさせてほしい。うーん、こういうのを作れてしまうのが英国映画界の「オトナさ」なんだろうか。
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