金宮さん

ふれるの金宮さんのレビュー・感想・評価

ふれる(2023年製作の映画)
4.0
母の喪失を静かに描く。淡々とした作品なのだが、映像がとにかくハイクオリティなので飽きることがない。また共感度の高い演技演出脚本は、胸に詰まる強い追体験を生む。21歳の自主制作ということですが、そのレベルはとうに超えてますね。

映像は、色調や光と影の緩急が抜群で、どのシーンを集めても写真集になるやつ。台詞は現場で俳優さんと考える手法とったとのこと。それが功を奏したのか、とにかく超自然体となっています。

さらに生活音の「音量調整」も見事で、ノイズにならない程度の生活音耳残りは、まるで登場人物の横にいるような没入感を生む。また、その調整は台詞にまでおよび、例えばドライブ中に継母になりそうな女性の台詞が、走行音にかき消される程度になっているのは主人公の女の子の気持ちの表れ。

このあたりは市川準監督や、良かったころの岩井俊二監督を連想します。少し大袈裟に言うと、こういった機微こそ日本人が邦画を楽しめる最大のポイントであると思うので、とても嬉しい。

これら丁寧な演出の結実が、ラスト近くの父と姉のお墓参りのシーン。母がいなくなった後の生活を、姉は父に「楽しくなかった?」と、父は姉に「しんどかった?」と問いかけます。鑑賞者にもうっすら伝わっていた、2人それぞれの家族への気遣いスタンスの答え合わせ。

インタビューによるとこの映画の主人公女の子を通して「一人じゃない」ということを伝えたかったとのこと。しっかり伝わりました。

ーーーーーーーーー

蛇足だとは思いながら、21歳ならもっと衝動に任せても素直なのかなーとよぎってしまったのは事実。逆にいうと、演出で個性を出しながらもつくりはとっても観客に丁寧。もしかしたら時に作家性を炸裂させる市川準・岩井俊二よりは、丁寧なハイクオリティがもはや個性となっているデレク・ツァン監督の方が毛色が近いのかもとふと思いました。
金宮さん

金宮さん