金宮さん

パンとバスと2度目のハツコイの金宮さんのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

"好きになられたら引いちゃう。お願い、だから好きにならないで"

これは主人公のフミが、再開した初恋の相手タモツに向けた言葉。これだけで一筋縄じゃいかない、今泉作品だなあって感じ。

フミはつい最近、2年以上付き合った彼氏のプロポーズを断ったばかり。ずっと好きでいられる自信がなかったから。自分の人生には孤独が必要だと結論づけており、タモツとの仲を進展させようとしない。「好き」を信じられていない。

タモツは相手の浮気で別れたバツイチだが、元妻に未練たらたらで、まだ愛しているときっぱり。だからこそ離婚時も相手の望む通りとし、最愛の息子の親権も元妻にあるようだ。「好き」を信じてるタイプ。

もう1人の主要キャラはサトミ。サトミは学生時代フミに告白し振られた。自身がレズビアンであるという意識は確固たるものだったが、今では信金勤めの優しそうな男性と一児をもうけ幸せに暮らす。今でもフミのことが大好きだが、同じくらい夫も愛している。「好き」への度量が広い。

いつもの今泉作品に比較しエキセントリックな恋愛観は登場してこない。3人の恋愛観すべてにまったく共感できないと言ったら嘘になる感じ。だからこそ「好きってなんだっけ?」をじっくりと考えさせられる。今泉監督ストロングスタイルな作品だった。

フミは最終的に「片想いだから好きでいられるんだ」と結論づけ、タモツとは距離を持ったままを選択する。それもひとつの正解だとは思うが、やはり一歩先に行っているのはサトミだと思う。

好きの選択肢を「片想い」だけにしておくのはもったいない。「片想いだから好きでいられる」にうなずいてしまうのは、「好き」がある種の自己陶酔だけだと認めているような気がする。よく言う「恋に恋する」ってやつ。

不自然なシーンを基本的に観たことがない今泉脚本において、心情吐露を高台から叫ぶシーンはえ!?って感じだったのだが、これぞまさに「片想い」への陶酔という違和感の演出。意図的だと思う。

「片想い」ではない感情も好きの一種であると認めることができたサトミが一番息苦しくなさそうだった。時に孤独を求めたくなる気持ちもわかるが、繋がらずに生きていくのは無理だと思うし、繋がりに必ずしも「片想い」は必要ない。

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・サトミを演じているのが伊藤沙莉さんだというのが本当にデカい。今泉監督と伊藤沙莉さんの相性は抜群だと想像していたんだけど、今作で既に証明されていましたね。

・深川麻衣さんははじめましてだと思っていたんですが、『愛がなんだ』の葉子さんだったんだ。印象が真逆だったので気づかなかった。

・プロポーズで振られるフミの元カレ柏木。彼もあんまりおかしなこと言ってはおらず、「なんだ今回の柏木はまともな柏木か」と『サッドティー』と比較し、おとなしめな印象を持っていたが、その後柏木が新しい彼女を連れてフミの職場に来ていたことを知って驚愕する。

なんならフミもタモツへのラブレターを自分のことを好きなサトミに相談する。タモツは元妻への告白の練習台にフミを使う。ダメですよーもう!サトミ以外けっこうトンチキなことをやっていて、今作の今泉監督はそれをこっそりしのばせる意地悪ムーブをしてきましたね。

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「好きだった人のこと、付き合わないで嫌いになれる?なれないよ。だってその人のこと嫌いになれるほど知らないんだから。」
金宮さん

金宮さん