柏エシディシ

ダーマーの柏エシディシのレビュー・感想・評価

ダーマー(2022年製作のドラマ)
4.0
毎回、つらい…つらい……と思いながらも、でも何だか観なければいけない、目を逸らしてはいけないと自分に言い聞かせながら観ていた。
ジェフリー・ダーマーという男を、理解不能なサイコパスの枠に貶めることなく、その為人や精神構造を丁寧に解体し活写し、その内面に観ている者を誘いつつ、それでいて過剰に美化することもなく、その醜さ恐ろしさを徹底して描いていく。
そして、シーズン屈指のエピソード6「声なき者」を起点に、ダーマーの犠牲者や家族、周辺の人々の視点を絡ませ、多角的に事態を捉え直しつつ、やがてアメリカ社会や延いては人間そのものの暗部に切り込むシリーズ構築は映画では実現困難なドラマシリーズならではの厚みがあって見事であった。
製作にライアン・マーフィーの名前があり合点がいくが、単なる扇情的なシリアスキラーものではなくマイノリティへの共感が全体に滲む。
安易に"社会の所為"とは勿論言い切る事は出来ないし、してもいけないと思うが、法治システムが適切に機能していれば大きな悲劇を防ぐ事が出来たであろう本作の示唆の通り、この物語の犠牲者もダーマー自身も、ある意味現代の社会歪みの象徴である様に思う。そして、よりその歪みは加速度的に拡がっている様にも思う。
"忘却"ではなく、敢えて、その闇や悲痛に向き合う勇気とそこから学ぶ事が同じ様な悲劇を生み出さない唯一の手立てではないだろうか。
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