しちみ

ザ・カメラマンのしちみのレビュー・感想・評価

ザ・カメラマン(2016年製作の映画)
4.2
これは凄い。こんなの普通じゃ思いつかないでしょって久々に思った。
ショートムービーで短い時間だからこそ一つひとつのものに深みを感じられる演出だったかなと思う。

初めは自分が病に侵された時にどのように変化していくのかを忘れないためにただ記録しているのかと思ってたけど、真相はそんなもんじゃなかった。
人ってちょっとしたキッカケで変わっちゃうし、その変化に周りが必ずついていけるかって言われるとそうじゃない。父が生きている間に…という気持ちもあるけど、そんな風に簡単に分かり合えないからそういうのも踏まえた上で弟は兄の本当の気持ちを理解していたんだなと思う。

弟には圧倒的な才能があるんだけど、それに対する執念や価値観がちょっと周りとはズレているのが良い。犬を実際にどうしたのかはさておき、そういう弟の設定があるからこそ父が言う「お前に決まりだな」というセリフが生きるんだと思った。

カメラや映像技術が発達しすぎた現代だと度々スマホでの写真撮影について議論を生むことがあるけど、やっぱり私は記録に残しておきたいなと思ってしまうしこの映画を見て改めて痛感した。
他人に迷惑かけたり、SNSに載せるためだけに撮るっていうのは確かにどうなんだって思うけど、何か大切な瞬間をギュッと閉じ込めてそこからもう一度開けるのは記録することの美しさだと思う。どれほど深く愛していても、どれほど深く心に残っていても、いつか声も思い出せなくなって顔も曖昧になっていってしまうのが人間だから。

そういうもん全部ひっくるめて映画作品としてこれを世に放ったことが本当に凄いと思うんだよな。映画好きでいて良かったなとも思う。それくらいに私は好きな作品だった。
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