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アダージョのナーオーのレビュー・感想・評価

アダージョ(2023年製作の映画)
4.0
大好きな『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』のステファノ・ソッリマ監督最新作!!

去年のベネチア映画祭で高評価と聞いて以来、ずっと観るのが楽しみでした。なので劇場公開なしのままNetflixで配信されたのはちょっと残念…

イタリアが舞台の犯罪劇×群像劇ということでステファノ・ソッリマ監督の過去作の中では『バスターズ』や『暗黒街』が一番近い。世界観や物語は別物だとしても、『バスターズ』、『暗黒街』、『アダージョ』はソッリマのローマ三部作だと思います。

これまでの作品に共通する点で言えば、
基本的に登場人物はみんな悪党、じゃなくても限りなくグレーな人たち。彼らが生きる血も涙もない世界を描くと同時に、そんな彼らの中に残っている、誇りや弱さみたいな人間らしさを描く。

ステファノ・ソッリマ監督の映画は全部
こういう話。本作『アダージョ』もそういう話で『暗黒街』や『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』がオールタイムベストの自分にとって面白くないわけがない、本作がステファノ・ソッリマ最高傑作とまでは言わないけど、こういうダークなクライム映画は大好物なので、めちゃくちゃ面白かったです。

舞台がローマということもあり、主人公マヌエルを追う汚職刑事たち、単なる警察ではなくカラビニエリと呼ばれるイタリアの国家憲兵隊。日本人からすれば馴染みがない組織なので、カラビニエリのことを調べてから観ると映画に入りやすいと思います。最初は人の名前だと思ってちょっと混乱しました…

またローマ郊外で大規模火災起こっており、ローマ市内からも煙が見えて、火災の影響で頻繁に停電という設定も面白かったです。特にカラビニエリの汚職刑事と盲目の男が対決する場面、まさかソッリマ映画で『ドントブリーズ』的な展開が見れるとは思ってもいなかった…

キャストで言えば『バスターズ』や『暗黒街』にも出演していたピエルフランチェスコ・ファヴィーノがまさかのスキンヘッド。ファヴィーノ史上ぶっちぎりにイカつい。少し『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』のアレハンドロを彷彿とさせる役柄でした。

あと元ギャングの父親を演じた『ゴモラ』のトニ・セルヴィッロ。認知が入っていると思わせておいての… 彼の過去については描かれないものの、トニ・セルヴィッロの演技によって恐らく昔は恐ろしいギャングだったということが伝わってくる見事な演技でした。

ここ父親を舐めてた相手が実は… 的な展開にしたらもっと盛り上がって面白くなったとは思いますが、あえてしないことによって現実的な苦さが増しており、この突き放したドライな作風こそステファノ・ソッリマらしさだと思います。

これまで作品と比べるとアクションが少なめ目、全体的に重苦しい雰囲気だから万人受けはしないでしょうが、ステファノ・ソッリマの映画が好きな映画ファンは見て損はない。

前作『ウィズアウト・リモース』が批評的に失敗してしまったことからハリウッドではもう映画撮らないと思いきや、次回作は『ザ・タウン』の原作者チャック・ホーガンが書いた小説『流刑の街』をウィル・スミス主演で映画化!

これは完璧な人選!!面白い決まってる!
完成が待ち遠しいです!
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