すずきじみい

アイアンクローのすずきじみいのネタバレレビュー・内容・結末

アイアンクロー(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

監督、脚本: ショーン・ダーキン

口と腕で敵をねじ伏せて勝利者になる=男らしさ、そんな思想の父親が支配する家族の家のキャビネットには何個もの立派な銃が陳列されている。
でも家族全員カトリックで、何かと言うと、神が決める事とか言う親。息子が困り事を相談しに来ても、教会の礼拝に遅れると困るから、と追い払う母親。
暴力とカトリック信仰が共存してる気持ち悪さ。
トランプもこういう時代の精神が忘れられなくて、又そういうアメリカに!と思うんだろうな‥‥

『巨人の星』を再放送で観てた。
昔の、子どもに自分の夢を託す親父はみんなあんな感じだった様な気がする。
子どもの自主性を尊重するって育て方は、
1990年以前には超マイナーだった。

とは言え、父権強権の気風の中で育てられて、精神的に追い詰められて自殺しちゃうなんて人はほとんどいなかったから、呪われた一家と言われる程、子どもの自殺が続くのは、父親だけでなく、母親も子どもをちゃんと愛してなかったからだと思う。
米国人は家族に、挨拶代わりに「愛してる」とその言葉を安売りするし、この父親も口ではそう言うけど、この父親の場合、
嘘にしか聞こえない。
母親も、リンク上の怪我が元で一度、昏睡状態になった息子に「又、プロレスをやるのが怖い」と言われたら、
「プロレスなんて辞めていいのよ」
と言うのが母親だと思うが(いつ、どんな時代の母親でも)
何も言わない、黙ってる。言う事と言えば、
「兄弟で話し合って解決して」
「神様に祈りなさい」

この母親を演っているモーラ・ティアニーは、ドラマ『ER』で、地頭が良くて、人情に厚くて、故に色々トラブルに巻き込まれて何とか解決して必死に生きていくという、美人じゃないけど温かい、アビーという女性の役だったので、アビーとは正反対の、母性なき、事なかれ主義の女性を演ってるのにとても違和感を感じたし、『ER』の大ファンとしては、モーラ・ティアニーはもっとあったかい女性の役じゃないと合わない、ミスキャストだと主張したい。

TVドラマと言えば、私がプロレスの話を、1日かけて50キロ離れた町の映画館に観に行ったのは、ケリー役のジェレミー・アレン・ホワイトを見る為だった。
この人も『ER』の次に大好きなドラマ
『シェイムレス 俺たちに恥はない』で、準主役級を10年間、好演してた為、見続けてるうちに地下アイドルを応援するおじさんの気持ちになり、映画のメジャー作品での初の重要な役と期待していたが、TVドラマでの生き生きしてた彼程のインパクトは無かった。
優しく誠実、故に苦悩するケビン役のザック・エフロンとカッコ良くて、カリスマ性のあるデイビット役のハリス・ディキンソンの存在感の大きさには負けてる気がした。
映画俳優って凄いなぁと思った。
約2時間の中の更に少ない自分の出番の時間内に存在感を最大限に見せ、印象づける力、そういうのがないと生き残っていけないんだろうなと思った。

強くなくていいし、泣いてもいい。
そう気づいたケビンが幸せになる結末の温かさ。
家族を愛し、愛され、大勢の子どもや孫に囲まれて幸せな老後をおくる。
そういう勝ち方がある。
最も幸せな勝ち方だと思う。

(とは言え、彼の長男と次男はやはりプロレスラーになっちゃったそうだ)