矢崎

ゲキ×シネ「天號星」の矢崎のネタバレレビュー・内容・結末

ゲキ×シネ「天號星」(2024年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

結論:早乙女太一さんの演技の幅を堪能できて大満足!


精神入れ替わりということで、クール狂犬系人斬りとへっぴり腰のヘタレ旦那という極端から極端への切替わりの見応えが凄い
黒髪ポニテで赤と黒の着物という最高のビジュアルで舞うように斬り結び、ニヒルに決めたかと思えば顎が外れそうなギャグ顔をしたりみっともなく泣き叫ぶ(しかしそんな姿も格好いい)……一粒で二度も三度も美味しい演出

毎回のことながら、高田聖子さんと粟根まことさんの安定感が抜群でとても良かった
うさんくさいながらも確たる実力が感じられるキャラ性が見事に現れていて目が惹きつけられる

また、今まで観てきた新感線での早乙女友貴さんの中で一番好みの仕上がりでこちらも大満足
強敵と戦いたいという刹那のために生きて、そのために面倒見の良さを発揮しちゃって、愛嬌もあって…朝吉さんは本人無自覚のタチの悪い人たらしだと思います
観ている側としてはシーンを重ねるほどに生き延びてほしい愛されキャラとして平和に暮らしてほしいという思いが沸くけれど、そんな身勝手をよそに本人は大満足で初志貫徹する…そんなところまで堪らない
刃を交わす瞬間の高揚感を熱く語る姿には「歌舞伎next阿弖流為」(中島かずき&いのうえひでのりタッグ作)で描かれた殺陣シーンを思い出した

全体的に華やかで綺麗めな衣装が目立ち、
粟根さん池田さんのぬらりと光る着物、流れ巫女の異文化の法則を感じさせる装飾など、画面に華があり退屈しなかった

ストーリーとしては、両極端に純粋だったふたりが何度も入れ替わり、違う肉体と違う立場を経験して、だんだんと元とは違うものになっていく姿が哀しくもあり美しくもあり…
終盤、稼業なりのケジメをつけようとする娘に対して、同世代のもうひとりの娘は人殺しをやめるよう言い、半兵衛は激励するのがなんとも気持ち悪くて良かった
自由意志であれ強制であれ一度裏に浸かった人たちと、それらと限りなく近くにいながらも綺麗な巫女であり続けた人の断絶…とても良い


一方、キャラクターが大切にするものとしないもの、こだわる所と捨て置く所、譲れない軸などがどうしてそうなるのか理解できず乗りきれないシーンもあった
まあそれは新感線さんでは毎度の事だが、今主役に関してはそんな戸惑いも早乙女太一さんの表現力でねじ伏せられた次第で、腑に落ちないのに魅せられるという最高の体験となった

一幕で積み上げた絆や居場所が二幕で無惨に踏み躙られる(けれど最後にひっそりたんぽぽが咲いている)という容赦のなさを求めて新感線を選んでいるので、今作は周囲への被害があまりなかったのが意外ではあった
が、善良な人々が傷つかない分、脛に傷のある人々がそれなりの末路を迎えて見応えがある
特に手のひらくるくるの番頭さんの生き汚なさが微笑ましく、最期までにこにこでとても良かった
矢崎

矢崎