Keigo

ヴェルクマイスター・ハーモニー 4Kレストア版のKeigoのレビュー・感想・評価

4.5
2022年にタル・ベーラという監督のことを知ってからというもの、いつか劇場で作品が上映されることがあれば必ず観に行くんだと心に誓っていたが、そのチャンスは案外早く巡って来た。

しかしそんな時に限って、何かの祟りかのように仕事が忙しい。

でも行かねば。何がなんでも、是が非でも劇場に。そう思ってなんとかねじ込んだ自分を褒めてやりたい。でかしたぞ。

タル・ベーラの作品を映画館のスクリーンで観た。その事実だけでも十分、仕事に忙殺される自分には染み入った。


タル・ベーラ作品を観るのが久しぶりだったからか、その圧倒的な独自性、らしさのようなもののあまりの濃さに目眩がした。
冒頭から早速だ。
初めて『サタンタンゴ』を観た時のあの興奮が蘇ってきた。そうそうこの感じ…この感じがタル・ベーラだ!!!

鑑賞後すぐに感想を書き残せなかったのもあって、ただでさえ言語化するのに骨が折れるタル・ベーラの作品の細部への詳細な感想は今は書けそうにない。いや、今じゃなくても書けないのかも。

ただ鑑賞中、とても印象的な瞬間があった。
劇中で延々と続く人々の足音を聴きながらふと、自分の中に眠っていたある記憶が突如浮かび上がってきた。

幼少期にどこかの踏切が開くのを待っていた時のこと。なかなか開かないその踏切が閉まっている間、一定のリズムで鳴り続けていたあのカンカンという踏切の音を集中して聞いていると、だんだんと違う音に聞こえてきた。それがしばらく続くと、もはやどう考えてもカンカンとは聞こえなくなってしまった。何も変わっていないはずなのに、自分の中だけで確かに何かが変わったあの瞬間。そしてそのことを、とにかく不思議に思っていた記憶。

長回し、反復、連続、持続。
それらによって生み出されるリズム。
タル・ベーラが撮る映像が鑑賞者にもたらすものを明確に言語化出来るほど自分は達者ではないけれど、感覚的にはそこに触れられたような気がした瞬間だった。

認知が歪むような、あの瞬間の感覚。
タル・ベーラの作品にはそれがある。
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