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夕陽のガンマン 4K復元版のArataのレビュー・感想・評価

4.5
公開2週目、金曜日の午前中に鑑賞。

荒野の用心棒に続き、ドル3部作を順番に鑑賞中。前回は公開2日目、土曜日のお昼の回だったのでほぼ満席だったが、今回は平日と言う事もあり、割とお席に余裕があった。
興行的には大入りの方が良いのだろうが、個人的には両隣が空席である方が、居心地が良く映画に集中出来るので嬉しい。


【あらすじ】
割愛。


【感想など】

・ドル3部作
以前は、大ヒットを意味するドル箱と言う表現にちなんで、長らく日本においては「ドル箱3部作」と呼ばれていたが、本来は原題に「ドル(Dollars)」と言う言葉が含まれている事に由来する為、「箱」を含まず「ドル3部作」と呼ぶとの事。
ただし、3部作の3作目「続・夕陽のガンマン」の原題にはドルと言う言葉は含まれていないが、主な製作陣や俳優陣の顔ぶれがほぼ同じなので、それを踏まえて3部作とされているのだと思う。
個人的には、今回のチラシを拝見するまで「ドル箱」で覚えていたので、今はまだ何となく違和感を感じるが、いずれ慣れていくのだろうか。


・タイトル
原題は、「Per qualche dollaro in più」と言うイタリア語で、英題もその直訳の「For a Few Dollars More」、「あともう少しのお金の為に」と言った感じだが、邦題はラストシーンでの夕陽をバックに立ち去るリー・ヴァン・クリーフ氏演じるダグラス・モーティマー大佐の姿と、彼に引けを取らないクリント・イーストウッド氏演じる名無しの男と言う、銃を扱う彼等の事を言い表した内容からと考えられる。
ガンマンは、英語圏では「銃を持った『悪党』」の意味として使用される事が多いらしい。
我々一般的な日本人がイメージするであろう「ガンマン」にあたる英語は、Gun fighter/ガンファイターと言う言い方が適しているらしい。

ガンマンの類義語でGun slinger/ガンスリンガーと言う言葉もある。
私が学生の頃によく聴いていたバンド、ザ・ハイロウズのとあるアルバムの中に「ガンスリンガー」と言う曲があり、歌詞の内容が西部劇の世界観の様なもので、かっこいい曲調に思わず歌いたくなってしまうのだが、ガンスリンガーと言う言葉の意味が今ひとつ分からず、英語の先生に質問した記憶がある。


・スタッフ
監督、音楽は、「荒野の用心棒」と同じく、セルジオ・レオーネ監督、エンニオ・モリコーネ氏作曲と言う、小学生の頃の同級生コンビ。
その他、3作品共通どころか、その後の「ウエスタン」や「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」を含めた5作品に渡ってセルジオ・レオーネ監督を美術・衣装で支えるカルロ・シーミ氏や、「荒野の」から引き続き撮影監督を担当するマッシモ・ダラマーノ氏などが制作の傍を固め、素晴らしいチームワークにより、より磨きがかかった作品となり得たのだろうと感じる。


・キャスト
クリント・イーストウッド氏が、前作に続き、そして次回作にも主演。
名無しの男とも言われているが、彼が馬に乗る時と銃を撃つ時以外は、片方の腕しか見せない事から、片腕や不具者を意味するイタリア語の「monco/モンコ」と呼ばれている。
しかし、マッチでタバコに火をつける時などに両腕を使っていたりもする。
また、パンフレットでも解説があったが、モンコの発音は、「モ」の音が限りなく「マ」に近く、場合によっては「マ」でカタカナ表記されてもおかしくない位で、劇中モンコと言う名前が初めて出てくるシーンでは、たっぷりと間を設けて勿体ぶった様な言い回しで「モンコ」と言うので、これに驚かれる日本人は多いのでは無いかと思う。

今作では、とにかくリー・ヴァン・クリーフ氏がカッコ良い。
彼の演じるダグラス・モーティマー大佐は、ゆったりとした動作で自信と余裕が溢れる人物。
これは、撮影の前に大きな怪我を負い、俊敏な動きが難しい状態にあった為と言われている。
パンフレットには、モーティマーが帽子を拾うシーンは、本当は殴り合いをさせる予定だったと書かれていたが、怪我の影響で断念。しかしそのおかげで、帽子を何度も銃で吹き飛ばすモンコと、それをゆったりと追いかけるモーティマー、そして最後にはモーティマーがモンコの帽子を遠距離から吹き飛ばすと言う、あの名シーンが産まれたのだと知り、怪我の功名とは正にこの事かと感じた。

また、前作「荒野の」で最大の敵ラモンを演じた、ジャン・マリア・ヴォロンテ氏は、今回も最大の敵として出演。
トラウマの様な心的ストレスを抱えていると思われる役所を、見事に怪演されておられる。
一説によると、セルジオ・レオーネ監督に、抑えた演技を強く求められたらしい。
それにより、あの様な演技になったのかと思うと感慨深い。
発泡後、激しく落ち込み泣き崩れたり、無気力極まりない態度で、タバコをせがんだりするシーンは、恐ろしさすら感じる。

それと、「荒野の」で棺桶屋のピリペーロを演じたジョセフ・エッガー氏は、モーティマーの情報をモンコに知らせる重要な役所を演じておられる。今作が遺作との事。



・宗教色
セルジオ・レオーネ監督の前作「荒野の用心棒」では、主人公を馬では無くラバに乗せ登場させたり、重要なキャラクターの名前がヘススとマリソルと言うキリスト教由来のスペイン語名が使用されていたりしていた。
今作では、モーティマー大佐が登場するシーンで広辞苑の様な大きなサイズの聖書を読んでいたり、エル・インディオが潜伏しているのが廃教会であったり、そこへ知らせを告げに来る手下の数が3人であったり、その教会の神父台の様な位置から士気を高める演説をしたり、そこに集まる手下の数が13人であったり、などなど。
キリスト教をもう少し理解していたら、もっと作品に深みを感じる事が出来るのかも知れない。


・懐中時計
モーティマー大佐とインディオの2人が所持している、開くとオルゴールの音が流れる仕組みのペアの懐中時計。
モーティマー大佐が持っている方が、やや小ぶりに見える。
モーティマー大佐の妹カップルが、幸せの絶頂にいた時に、その2人がそれぞれ所有していたペアのものと思われる。
しかし、その幸せな時間は、インディオの愚行により永遠に奪われてしまう。
インディオにとって、モーティマー妹との一時的な快楽、必ず止まってしまうオルゴールと言うものの性質、そして永遠に巻き戻す事の出来ない彼女の死、などなどがこのオルゴール付き懐中時計により結び付いて、トラウマとして彼に重くのしかかる。
故に、彼はその音楽を決闘のテーマにし、音楽が止まる時を「死」が訪れる時として扱っている様に感じる。
美しい音色と、相反する形での表現がとても印象的。



【お酒】
銀行のキャビネットの高級酒、サルーンのビール、ラム酒など。

・銀行のキャビネットの高級酒
インディオ達が狙うエル・パソの銀行の金庫は、木製の小さなキャビネットの中に隠されている。
そのキャビネットは、上段に来客をもてなす為の高級酒が並んでいる。
これは、インディオが、刑務所の中で知り合った元銀行員から聞いた確かな情報であり、彼等は入念に調べて強盗を計る。
その話の直後、場面が銀行内に切り替わり、モーティマー大佐と銀行員、そして件のキャビネットが映し出される。
映像には、大きな金庫とその隣の小さなキャビネットが映り、大きな金庫からお金を出し入れしている様な銀行員の姿が見られるので、金庫はその大きな方なのでは無いかと思うが、隣の小さなキャビネットの上段から、装飾が施されたクリスタル製と思われるデキャンタボトルを取り出し、木製の樽で長期間熟成した様な、琥珀色よりも更に濃いめの茶色い液体がグラスに注がれ、おもてなしとして振舞われていた。

余談で、モーティマー大佐は別の銀行にも顔を出しているが、その際の銀行員の、はじめはヘコヘコしているが、強盗の話題になった途端に顔色が曇り、丈夫な金庫の話題で、それまで半開きだった金庫の扉を閉める、と言った一連の振る舞いが滑稽で可笑しい。


・サルーンのビール
インディオの手下が、銀行の下見の為にエル・パソの街を訪れ、サルーンと呼ばれる西部開拓時代の形式の酒場でビールを飲んでいる。
モーティマーが挑発をするも、それを避け、その場を立ち去る。
その際、カウンターに残された、中身が半分くらい入ったままのビールジョッキが印象的。
本懐を遂げる為には、サルーンに留まる事は得策ではないと判断し、ビールを飲み切っていないにも関わらず、彼らは引き上げる。
その様子に、モーティマー大佐は何かを察し、部屋へ戻り、望遠鏡で彼らの動きを観察する。
お酒がアイテムとなり、任務の重要性が分かる良いシーン。


・ラム酒
モーティマー大佐からモンコへ、インディオ達と北へ行けと伝える様に言われるが、モンコはそれには従わず、インディオに南へ行こうと伝える。
そこで用心深いインディオは、東にしようと言い、向かった先でモンコは銃の腕前を披露する。
しかしそこには、全てお見通しのモーティマー大佐が先回りをして、既に彼らの到着を待っていた。
再開直後、酒場で食事を摂るモーティマー大佐と会話をするモンコだが、インディオ達がやって来て、会話をやめカウンターに振り返り、バーマンに注文するのが、ラム酒のダブル。
ひと言にラム酒と言っても様々だが、樽熟成の無いホワイトラム、短い期間の樽熟成によりほんのり色付いたゴールドラム、長期間の樽熟成でしっかりと茶色く色付いたダークラム、スパイスで味付け香り付けされらスパイスドラム、がある。
次にモンコが映し出された時に飲んでいるシーンがあるが、ほとんど透明の液体だったのでおそらくはホワイトラムかと思われる。
作品の舞台はアメリカ南西部の、メキシコの国境近くの小さな街。アメリカは「バーボンウイスキー」、メキシコは「テキーラ」のイメージが強いが、実はこの辺りではラム酒の生産量も多い。
ラム酒と言えば、海賊のお酒と言う気もするが、賞金首を狙って賞金稼ぎをする生き方は、一攫千金を狙う海賊の様でもあり、モンコの姿とも重なるあたりも興味深い。
ラム酒のダブルをキメて、大金持ちになる夢でも見ながら眠る事にしよう。


【総括】
極上のエンターテイメント映画に、感動的な人間ドラマ、それを映し出す独特のカメラワークと、セリフ以上に語ってくれる最高の音楽、そしてそれらを表情や仕草で格好良く魅せてくれる素晴らしい俳優陣、マカロニ・ウエスタンの最高傑作の1つ。

分け前を辞退し、夕陽をバックに立ち去るモーティマー大佐をスクリーンで観る事が出来ただけでも感動。

続・夕陽のガンマンも、今から楽しみ。
Arata

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