むさじー

女が階段を上る時のむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

女が階段を上る時(1960年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

<銀座に生きる女の光と影>

夫に先立たれ、生活のために銀座の高級バーの雇われマダムとして働く圭子は、経営者からは売り上げが落ちていることを責められ、売れっ子ホステスには上客を引き抜かれて独立されてと上手くいかない。この世界でのし上がっていくには身体を張るなどうまく立ち回ることが必要だが、それが出来ずに苦悩する。
彼女目当てに来店する客は多く、見た目はイマイチだが優しいプレス工場社長の関根にプロポーズされるが、彼女が密かに好意を寄せるのは渋い二枚目の銀行支店長の藤崎で、一方、店のマネージャー小松も彼女に好意を寄せている。
中でも、加東大介演じる関根のキャラが絶品で、一見律儀そうな詐欺師まがいの女たらしという虚言癖男。この男の口車に乗って堅実な結婚を決意するのだが実は貧乏な妻子持ちで夢に終わった。正体がバレた途端消えてしまったが、彼の釈明が聞きたかった気がする。
その後、藤崎とは一夜を共にするが、家族持ちで大阪転勤の彼からは身を引き、小松からは一緒に店をやろうとプロポーズされるが、業界の裏を知る者同士の結婚はうまくいかないと一蹴する。気持ちを一旦整理して、新たな決意で今夜もバーの階段を上るのだった。
テーマも筋書きも決して目新しいものではない。それでも惹きこまれるのは迷える心の機微を的確に表現する高峰秀子の演技力と彼女の魅力なのだろう。加えて成瀬演出が、粘質になりがちなドラマを抑制の効いた描写で淡々と描き、低俗に堕することのない女性映画に仕上げている。残念ながら『浮雲』に及ばなかったのは、腐れ縁の一途さほどにはこのドライな恋愛観が響かなかったせいか。
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