Arata

用心棒のArataのレビュー・感想・評価

用心棒(1961年製作の映画)
4.4
2024年3月22日から公開の、「ドル3部作」の前に予習的に鑑賞。


3月上旬、新宿の街をいつもの様にうろついていると、青空と廃墟を背景に、腰の拳銃に手をかけ、くわえタバコで遠くを眺める様にして立つクリント・イーストウッドさんのポスターが飛び込んでくる。
ポスターの上の文字には、空に浮かぶ雲の様に浮き上がる白抜きの文字で、

クリント・イーストウッド 主演
セルジオ・レオーネ 監督
エンニオ・モリコーネ 音楽

とある。

そして、THE DOLARS TRILOGY ドル3部
作[4K]一挙上映、とある。
ドル3部作は、その昔はドル箱3部作とも言われていた「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」「続・夕陽のガンマン」と言う、先述の御三方の組み合わせによる「マカロニ・ウエスタン」の傑作3作品を指す異名。
どの作品も好きだが、スクリーンでの鑑賞は未経験なので、この機会に是非にと思い、3枚同時に前売り券で購入。
見事、特典のワイド版ポスター兼ごく簡単なパンフレットとも言える説明書き付きの「プレスシート」なるものをゲット。

今から感情がたかぶり過ぎて、毎日の様にエンニオ・モリコーネ氏の音楽を聴いたり、何かしらの西部劇などの周辺作品を鑑賞したりしている。

ちなみに、ドル3部作は「3部作」とは言っているものの、3作品はそれぞれが独立した作品であるし、「続」とタイトルについているのもあるが、それもまた無関係。
どれか1作品だけでも十分楽しめると思う、と言えばハードルがやや下がるのではないだろうか。
およそ60年前の作品を、ノイズを除去した上でスクリーンで観られるなんて、なんて素晴らしい事か。

そして、3部作の一つ「荒野の用心棒」は、セルジオ・レオーネ監督が、ボブ・ロバートソン名義で制作した映画で、今作「用心棒」の非公式リメイク作品である。

詳しい経緯は存じ上げないが、私が聞いた話をまとめると、「荒野の〜」制作サイドが、本家「用心棒」の東宝にリメイクの打診をしたものの、返事が無かったので、無許可のまま完成させる。
完成した後で東宝が訴訟を起こし、見事に勝利するが、そのあたりのゴタゴタを見ていた黒澤明監督は、この件をきっかけに海外での映画制作に乗り出す事になる。との事。
間違いがあれば、ご指摘いただきたい。



【あらすじ】
素性の知れない浪人が1人、文字通り風の吹くままに旅をし、辿り着いたのは2つの組がいがみ合い、物騒な状態になってしまった寂れた宿場。

窓から見える桑畑を眺めながら、桑畑三十郎と誰が聞いても嘘だと分かる名を名乗るその男は、どちらの組も喉から手が出る位欲しがる程の剣術の使い手で、三十郎はそこでひと稼ぎを企てる。

温情からとある一家を救ったところで、三十郎は捕まってしまい、三十郎は重傷を負い、それを機に宿場は血で血を洗う決闘の場へと変貌してしまう。

三十郎や宿場の運命は如何に、と言ったお話し。
主人公三十郎のニヒルでクール、それでいて実は情に厚く、そして何より剣術の腕は天下一品。
まさにハードボイルド小説の主人公の様な侍。





【感想など】
・制作
黒澤明監督が1961年に製作、マルタの鷹などでも知られるダシール・ハメット氏の「血の収穫」と言う作品をベースに書いたものとされている。
音楽は、日本映画界の巨匠佐藤勝氏。エンニオ・モリコーネ氏にも引けを取らない、日本が誇る素晴らしい作曲家の先生で、今作でも印象的な音楽で大変心地よい。


・撮影
多くの黒澤明監督作品を手がける宮川一夫氏による撮影で、複数台のカメラで同時に撮影する事で様々なアングルから映し出し、望遠レンズを多用する事でスピーディーで迫力のある映像を生み出す事が出来たらしい、などとも言われている。


・殺陣
今作の殺陣師の久世竜先生は、これまでの時代劇の殺陣に代表される言い立てからの戦いや、切られるのを待つかの様な様式美を重んじたものでは無く、西部劇などの拳銃による決闘の様に、一瞬たりとも気を抜く事が出来ない緊迫感が漂うものを作り出したとも言われている。※おまけに、砂埃が舞う演出まである。
1人につき2回切りつけたりしているが、これは完膚なきまでに仕留めるための演出との事で、より残虐で暴力的な殺陣となっている。
効果音は、牛でも豚でも無く、鶏肉を切る音らしい。


・賞
ヴェネツィア国際映画祭では、黒澤明監督は監督賞にノミネート、主演の三船敏郎氏は男優賞を受賞している。

どのシーンをとっても素晴らしくかっこいい演技なのだが、個人的には仲代達矢さん演じる卯之助が果てる直前、あの世への旅立ちに、もう一度鉄砲を握らせてくれと三十郎に頼み、手渡され、その銃口を三十郎に向けるシーンでの、至近距離で銃口を向けられてもなお、微塵も動じない三十郎の姿が痺れる程にかっこいいと感じる。


・キャスト
三船敏郎さんはもちろん、最大の敵として登場する卯之助を演じた仲代達矢さん、三十郎が始終世話になる居酒屋のおやじに東野英治郎さん、亥之吉役の加東大介さん、ひときわデカい丑寅の用心棒で羅生門綱五郎さんなんかが、印象に残る。
その他にも、司葉子さん、山田五十鈴さん、志村喬さん、などなど豪華な面々。
また、何十人と言うエキストラの方々による群衆の迫力も大いに感じる。

桶屋が逃げ出し、居酒屋のおやじが亥之吉を挑発し三十郎を乗せた桶を墓場まで運ぶシーンでの2人の会話は、声を出して笑うくらいに滑稽。



【総括】
全体的な印象として、セリフ以外にも、映像、音楽、演技、表情などで心情を語る、最高に痛快な、一匹狼によるハードボイルドエンターテイメント時代劇。


世界中の映画制作者が魅了された、世界の黒澤明監督の手腕が唸りをあげる素晴らしい作品。
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