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気まぐれな唇(2002年製作の映画)
4.1
 夜中のソウル、濡れた石畳の上をタクシーに乗るギョンス(キム・サンギョン)は、浮かない表情を浮かべながら、懐かしい人からの携帯電話の着信に出た。それは先輩からのチュンチョンへの誘いの電話だった。舞台ではそこそこ知られた俳優だったギョンスは、芝居ではなく映画に軸足を移すが、出演した映画が興行的に失敗し、約束されていた次回作のチャンスを失う。その時、エレベーター前で監督が言い放った言葉は、「人として生きるのは難しい 怪物になってはダメ」だった。全てを失った男は、失意のどん底の中でソウルからチュンチョンへ旅に出る。久しぶりに会う先輩と田舎で女を買ったギョンスだったが、お金で満たしてくれる欲望に価値が見出せないまま、ただ酒に酔い、酩酊する。翌日、帰り際の彼と対面を果たすのは、先輩の友人のミョンスク(イェ・ジウォン)だった。その夜、3人で呑む約束だったが、代行業者のいないこの地で先輩は素面のまま車に乗り、ギョンスやミョンスクを見失う。自由奔放なダンサーの彼女は、仲良くなるためにキスをしましょうとすっかり酩酊したギョンスを静かにはっきりと誘惑する。

 一見して男は運命の女により、失意のどん底から立ち直ったかに見えるが、「GLORIA」と書かれたレモン色の布団の中で一夜を共にした女は、「全ては挑戦」と携帯電話で意味深な一言を発する。泣き過ぎて、腫れぼったい目を覆い隠すような黒のサングラス、すっかり険悪になってしまった先輩との関係、男は気まずさを湛えながら、静かに実家のあるプサン行きの列車に乗るのだが、鬱陶しいインテリ層をさりげなくかわした先で、またしても運命の女ソニョン(チュ・サンミ)と運命的な出会いを果たす。『カンウォンドの恋』同様に、前半と後半でまるで違う二層構造の物語は、失意を救うはずのミューズと絶望的な別れをした後、より深く女に没入するうだつのあがらない男の滑稽さを描く。キョンジュで跡をつけた緑色のタートルネックのグラマラスな女に男はすっかり魅せられ、「私にとって君は本当に美しい」などと心にもない褒め言葉を使う。「いつも初心を忘れないで」という意味深な言葉を託された男は、神の啓示のようなその言葉に雷に打たれたような天啓を感じるが、男に出来ることは女への執拗なストーカー行為くらいでたかが知れている。惚れっぽい男の哀れな末路、「あなたの中の私 私の中のあなた」と叙情的な詩情を呟かせた一瞬の刹那、年甲斐もなく30歳の美女に恋をした男の滑稽な姿を素描する90°パン。今作は鬱陶しい雨に始まり、雨に終わる。運命の女を待ちきれなかった男は、キョンジュ地方の天気に運命を翻弄されるながら、それで良かったのだと半ば納得する素振りも見せる。
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