Keigo

偶然のKeigoのレビュー・感想・評価

偶然(1982年製作の映画)
4.2
キェシロフスキ監督作品7作品目。
作家性という言葉で簡単に括るのはいかがなものかと思うけど、根源的な主題のようなものはわりとどの作品にも通底している気がして、作品ごとにそこまで大きく雰囲気が変わるタイプの監督でもなさそうで、7本目までくるとだいぶ語り口にも慣れて心地よくなってきた感がある。

決定論、自由意志、責任の解放…
今作で描かれていることは個人的にも以前から興味深く感じていた内容で、キェシロフスキが描こうとしたこと全てを理解したとは言えないにせよ、どう考えているかについて多少なり触れられた気がするし、もし自分が取り違えていなければ、それは共感出来るものだった。

父の死を引き金に人生の目的を見失ってしまった主人公の運命が、電車に乗れるか、駅員に止められるか、乗るのを諦めるかによって分岐する。それぞれの分岐は体制側、反体制側、どちらでもない、へと進む。

どの分岐でも主人公の行動原理は基本的に変わらず、社会情勢等も変わらない。辿る経過は違えど、結局はどの分岐においても主人公の運命は一つに収斂する。

運命を変えるような偶然は存在するのか。
無数の因果の流れの中では、個人レベルで起こる小さな偶然など些細なことに過ぎないのか。そこに偶然の入り込む余地があるのか。

そこで気になるのは、ただただ目的もなしに球投げの技術を10年以上も磨き続ける2人の男性のシーン。

根本的な人間性、社会の状況や構造、運命が偶然に変わることなどないのかもしれない。偶然に頼ってそこに抗うことは出来ずとも、少なくとも自分の意志で何かを“積み重ね続ける”ことは出来る。それがキェシロフスキが思う、運命に反抗する唯一の方法なのかもしれない。


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