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降霊 KOUREIのnetfilmsのレビュー・感想・評価

降霊 KOUREI(1999年製作の映画)
4.2
 グラスに水を注ぐ音、ユングの心理分析、仮定の話が多い早坂文雄(草なぎ剛)の博士論文を訝しむ北見教授(岸部一徳)の姿。別室で呼ばれるのをも待っていた佐藤純子(風吹ジュン)は今日は会えないですと断りを入れた早坂の様子をじっと見つめる。効果音技師の佐藤克彦(役所広司)は今日も窓のない密閉された部屋で作業に勤しんでいた。家に帰宅すると、妻の純子はおもむろに金沢智子(石田ひかり)の亡くなった夫の降霊術を開始する。克彦と純子の夫婦は、郊外の一軒家につつましくも幸せに暮らしていた。しかし、純子には“霊”を感じる特殊な力があった。ある日、少女誘拐事件が発生した。だが、身代金受け渡しに失敗した犯人は逃走中に足場の落下事故で意識不明となり、少女も忽然と姿を消す。そんな折、純子の力に興味を持つ大学院生・早坂を通して、警察が彼女に協力を求めてきた。ところが、その少女は克彦のバンの中から発見される。犯人から逃亡した際、咄嗟に彼の仕事用ケースに隠れた少女の姿。仰天した克彦を尻目にその時、純子はある計画を思いつく。しかし、騒ぎ出した少女を静かにさせようとした克彦が過って彼女を死なせてしまう。

 黒沢映画において夫婦の関係性が出て来たのは、『復讐 運命の訪問者』の哀川翔と大沢逸美からである。『CURE』の役所広司と中川安奈や、『蜘蛛の瞳』の哀川翔と中村久美もそうだが、黒沢映画において、ある時から急に出て来た夫婦の関係性は、ここで一つの到達点を迎える。純子には霊を感じる特殊な力があった。彼女は霊媒としての能力で糊口を凌ぐが、環境を変えたいからとファミレスでのバイトを始める。しかしバイト初日に来た客(大杉漣)の背後に霊の姿を見てしまった純子はあっと言う間に店を辞めてしまう。ふいに挿入される場面、公園で緑色のワンピースを着た少女に若い男が話しかける。最初は見知らぬ男に警戒した少女だったが、母親の入院という狂言により、あっさりと車に乗る。その場面がやがて夫婦の間に波紋をもたらしてゆく。森を抜けた女の子はある箱の中に隠れ、それを知らずに主人公は家まで持ち帰る。この偶然の連鎖が、やがて夫婦に決定的な亀裂をもたらすことを2人はまだ知らない。映画の冒頭、霊体験や予知能力を発揮するのは風吹ジュンだけなのだが、中盤以降、少女の死から役所広司にもその体験が「感染」する。『CURE』でも『カリスマ』でも最後には常人離れした恐怖を身に纏った役所広司が、今作では夫婦の破滅を受け入れることになる。その予兆になった少女の霊の手のひら、まるで『スウィート・ホーム』の焼き爛れた刻印のように、彼女は自分の存在証明を役所広司のTシャツに記述する。もはや哀川翔扮する祈祷師でさえ救うことが出来なかった夫婦の災いが、やがて悲劇を生む。

いよいよ明日です。今回は年末大忘年会スペシャルと題しまして、管理人のベスト10発表、2017年の総括もやります。 宜しくお願いします!!
2017.12.28.(木)21:00~03:00 『映画の日 8』charge:500yen
@Music Bar LYNCH  栃木県宇都宮市二荒町8-12
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