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胸騒ぎの恋人のnetfilmsのレビュー・感想・評価

胸騒ぎの恋人(2010年製作の映画)
4.0
 フランシス(グザヴィエ・ドラン)とマリー(モニア・ショクリ)は互いのことを知り尽くした男女の親友同士であるが、ある日パーティで知り合った同じ男ニコラ(ニール・シュナイダー)を好きになってしまう。最初は仲良し3人組として仲良くやっているように見えた3人だったが、フランシスとマリーは互いの腹を探り合い、時にニコラの態度に一喜一憂してしまう。処女作『マイ・マザー』は親子の愛憎関係に迫ったグザヴィエ・ドランの反自伝的物語だったが、2作目の『胸騒ぎの恋人』は三角関係に揺れる男女の恋の駆け引きを描く。冒頭、それぞれの愛について語る男女の姿がクローズ・アップで映される。『マイ・マザー』ではドラン自身が母親について語るインタビューを物語の中に解け込ませたように、今作でも直接物語には何ら関係性のない男女の独白が要所要所に挿入される。ニコラという男は金髪巻き毛の高身長の美青年で、ほぼ同じタイミングでフランシスとマリーは彼に恋をしてしまう。この男どこかミステリアスな雰囲気で自分の気持ちをあまり強く押し出さないタイプで、2人は互いにニコラにどう思われているのか悩んでいる。

 親友であれば、互いの気持ちをカミングアウトすれば幾らか楽かもしれないが、ストレートな女性と同性愛の男性という垣根からかなかなか本音が切り出せない。そのじりじりするような2人の姿を前半は素描する。女の方にはもう1人愛人がいて、むしろその男の前でだけ本音をさらけ出せるようで、煙草を吸いながら幾らか本音めいた話をしている。ドランのライティングがまた巧妙で、マリーと愛人の最初の情事には赤色のライティングが施され、2度目の情事の際には黄色、同じくフランシスとニコラの寝室におけるライティングは緑を基調とし、それがクライマックスの象徴的場面になると青に変化する。それ以外にも『マイ・マザー』では出来なかった美意識が炸裂している。一番象徴的なのはBGMを使用したスロー・モーションの多用であろう。例えばニコラの誕生パーティにプレゼントを持って出掛けるフランシスとマリーの歩く姿を、壮大なスロー・モーションを使いながらクロス・カッティングで見せている。思えば前作でもクライマックスの花嫁衣装の女性を主人公が追いかける場面などでスロー・モーションの使用があったが、今作ではそれが随分強調されている。やがて3人で山小屋へ小旅行に出かけた時、事件は起こる。そこでフランシスとマリーの不和は決定的になる。

 カメラは基本的にクローズ・アップで3人の表情を追う。印象的なロング・ショットはこの山小屋の場面くらいで、あとはほとんどない。役者の背面にいる時も、その役者にぴったりとくっつきながら臨場感豊かに描いている。また役者の背面ショット自体も普通の映画に比べ、極端に多い。マリーは「手紙」で、フランシスは携帯電話ではなく「自宅電話」で、ニコラに思いを伝えようとする。この「手紙」と「電話」の使用が実に心地良い。効果的な色味の使用、印象的なスロー・モーション、手紙と電話、クラシック音楽とスタンダード・ポップス、ヴィンテージ・ファッション処女作『マイ・マザー』以上にグザヴィエ・ドランの強い美意識が滲む。ニコラの上からマシュマロが降って来るショットはただただ美しかった。
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