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テオレマのmidoredのレビュー・感想・評価

テオレマ(1968年製作の映画)
3.8
大きな工場を所有するお金持ち一家のお屋敷に、見る者を虜にする神秘的な青年が訪れて、家族それぞれ新しい自分を発見してゆく。

おそらく階級と信仰にまつわる寓話だと思われます。青年と娘が互いの左目を合わせてキスをする場面などイコノロジー的な感じがしました。娘の顔がボッティチェリの描く若い人そのままなのも印象的でしたし、現代美術の芸術家の内面を露悪的に吐露したようなモノローグは皮肉に満ちており、全体的に西洋美術の文化知識を煮詰めたような世界です。

1人の若者によって性的に大興奮してしまう設定にしては、伝統や文化、信仰心に対する敬意が色濃いところにイタリアの風土を感じます。度々でてくる富士の5号目みたいな火山灰の荒野も面白い。形而上の存在たるキリスト教の神が火山とつながるというのは不思議な気がしますが、汎神論というやつでしょうか。この物語では、ブルジョワ一家が青年との性的な関わりから自らの肉体(自然)を取り戻し、それはそのまま神との繋がりとなり、彼らを永遠に変えてしまいます。日々労働力を売り、己の肉体を現実のものとして暮らす労働者と違って、資本家階級の人間は肉体を忘れ果てた、神との繋がりを失った存在という事なんでしょう。

現代でも、美容と健康のためにせっせとトレーニングに勤しみ、アウトドアに課金して、荒野でやる瞑想のリトリートに参加する成功者たちがいますれけど、それでは本当に肉体すなわち自然を取り戻すことにはならないのではと思います。生活から乖離した筋肉運動はどこまでもお買い物でしかない。

キリスト教に明るくないので理解が追いつかないものの、奇跡が起きて畏敬の念にうたれる雰囲気などはたっぷり味わえました。家政婦が空を飛ぶシーンの不思議さと滑稽さはこの作品の1番のハイライトでした。
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