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ゴジラのmidoredのレビュー・感想・評価

ゴジラ(1954年製作の映画)
4.0
大元祖ゴジラ。やはりこのゴジラは戦争トラウマのメタファーなんでしょうね。焼かれた街や苦しむ人々の姿は妙にリアルであり、原爆や大空襲による大量虐殺や破壊の再現に見えました。

そもそもゴジラの足音が大きな和太鼓か爆発音のようでゾッとします。原爆をさしてピカドンとも言いますが、まさにその「ドン」なんですね。ゴジラがまずこの音として登場するのが秀逸でした。どこかでとんでもない悲劇が起きたことを知らせる音です。

今作のゴジラは足音で厳かに死のおとずれを知らしめる荒ぶる神にも似た恐ろしい不可解な存在で、顔も変に怖くて不快で、出てくるたびに神経に触ります。そこがまた良かった。諸星大二郎の気持ちの悪い化け物にも通じる想像力を刺激するビジュアルなのです。

今作以降のカジュアルなゴジラと比べると気持ち悪さも不条理さも、罪なき命を問答無用で殺しまくる大量殺戮生物兵器としての恐ろしさも群を抜いています。いかにも核兵器です。とっくに人類の手にはおえなくなっているという意味でゴジラは核兵器の化身でもあるのでしょう。

それに当たり前ですが、ゴジラが本物の生物であればこんなに無敵なはずはないのですよ。生き物ならば飯も食べればフンもする。深海の生物なら地上に出たら即死する。でもゴジラは唐突に海から来ては破壊して去ってゆく。

このあたり嫌な記憶とまるで同じです。ふいに思い出しては頭の中でああすれば良かったこうすれば良かったと考えてしまう。しかし、いくら考えても過去なのでどうしたって変えられず、また不意に思い出す。

どんなに綿密な会議を重ねようと、いさましく戦車や魚雷で戦おうと、平気の平左で戻ってきては大量殺戮と破壊を繰り返すゴジラそのものです。水爆実験による事故がトリガーとなって原爆のトラウマがもたらす再体験、それがゴジラでしょう。

戦争体験者はこうしておりにふれ戦争のトラウマと戦って来たのかと思うと言葉もありません。家や戦闘機が壊れたり、手足がちぎれたりするだけでなく、心まで壊れるのが戦争の惨い所です。

オキシジェン・デストロイヤーという最終破壊兵器をゴジラと共に沈めたのも、復讐ではなく平和憲法を掲げて進まんとしている当時の日本の姿と重なりますし、人類が生き延びるためには核兵器を永遠に放棄するしかないのだという強いメッセージも感じます。

ただ、海上保安庁が協力しているだけあって出てくる銃器や兵器が本物らしくて見ごたえがあり、ゴジラとの戦いにも悲壮感はなくポジティブな活気に満ちているんですね。核兵器を放棄せよと言いつつも反戦映画ではないのがこの映画の面白いところだと思います。破壊による痛みと、戦闘への嗜好を同時に再現している。つまり、もろ戦争トラウマの再体験映画なのです。

芹沢博士はいかにも優等生的に平和を守ってみせましたが、戦時中に戻って存分に戦い、今度こそは勝利して、傷のなかった日本に戻ることで心の苦しみを解消したいという、民主主義の世の中となっては表立って言ったら軍国主義者として後ろ指さされるような、トラウマならではのこだわりも戦闘シーンで全面的に放出しているから大ヒットしたのではと思います。
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