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津軽のカマリのmidoredのレビュー・感想・評価

津軽のカマリ(2018年製作の映画)
4.0
1997年に亡くなった津軽三味線の名人高橋竹山のドキュメンタリー。生者と死者の境界があいまいな、東北の風土を強く感じさせる作品でした。

農家や祭りのモノクロ写真、青森に残る惨たらしい飢饉の記憶、沖縄戦の戦没者、三陸大地震の被災、そして差別されていた障がい者の苦しい生活、竹山の生前を知る人々の思い出語りなどが、高橋竹山の津軽三味線にあわせて浮かんでは消えて行きます。

特に闇の中から浮かびあがる高橋竹山氏生前の映像は異様に解像度が低く、ザラザラとした質感がまるで幽霊でした。声と津軽三味線が冥界こちらに直接届いてくるような、青森だけに映像そのものがイタコの口寄せのようでした。

ちなみに竹山氏の奥様も目に障害がありイタコをしていたそうで、目の見えない男はボサマ(門付の三味線弾き)になり女はイタコに、というのもまるで日本昔話のような近くて遠い世界です。

イタコ系ドキュメンタリーだからかどうか、そもそも、目の不自由な子供だった高橋竹山が、文字通り生きのびるために死ぬ気で磨いた津軽三味線が異次元レベルだからなのか、それとも作中で語られる死者たちの幽霊が自分の後ろにいるせいなのか知りませんが、時々本当に背筋がゾーッと寒くなりました。

あの世とこの世が地続きになる感覚とでも言うのでしょうか。霊感のない自分でも異変を感じてしまうあたりさすが東北です。そこらの実話怪談よりもホンモノですね。

幽霊やあの世が科学的に証明できるかどうかということではなく、この感覚のあり方こそがあの世であり先祖崇拝の要なのではと。現代にこうした映像が生まれるのも、失われつつある伝統文化の大事な要素が東北に残っている証拠ではないかとも思いました。

高橋竹山氏については名前くらいしか知りませんでしたが、渋谷のジァンジァンでも演奏されたそうで驚きました。二代目高橋竹山氏は即興演奏にインド音楽も感じさせる現代的な女性でキリリとしていらっしゃいました。全然タイプの違う二代目の中に初代が生きているのも感じます。不思議なドキュメンタリーです。
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