midored

天井桟敷の人々のmidoredのレビュー・感想・評価

天井桟敷の人々(1945年製作の映画)
4.3
パリの劇場にたむろする俳優や貴族やごろつきが元女芸人ガランスの愛をめぐって粋なセリフを投げ合うテンポの良い作品。自分がみた配信ではなぜか第二幕から始まるのでめんくらいましたが展開やセリフがいちいち面白くて、パリの劇場で観劇しているような新鮮さで楽しめました。

貴族は体面を保つためにとりあえず決闘を申し込まねばならないので常に決闘リスクを意識していたり、英米では権威たるシェークスピアをボロクソにこき下ろすあたりフランスを感じます。紳士風のごろつきが上流階級しか人間じゃないと断言しているのも笑いました。革命が起こるだけあります。この映画、貴族描写が常に皮肉に満ちていて笑えます。

恋多き俳優のむちゃくちゃながら人情味のある行動も面白かった。鳥の丸焼きから足をむしり取って食べてすぐ放ったり、豪快にシャンパンを撒き散らしながらついだり、いちいち動きにパワーと魅力がありました。豪快かと思えば繊細でもあり、いかにも舞台俳優らしい登場人物です。パントマイム俳優バチストよりも観ていて楽しい。

パントマイムには不気味さと哀愁が漂っていて、これはこれでじっくり見たい妙な味わいがありましたが、パッと見では不気味ですね。白塗りの痩せた男が蛇みたいに動いていて慣れないうちは悪夢すれすれだと思います。

あとは三位一体先生とか、又の名を独り寝・身持ちの固いご意見番とか、古着屋が死ぬだけの劇『古着屋』が大人気とか、詩人が書く脚本のユーモアセンスはさすがでした。お話自体はメロドラマだったような気もしますが結構笑いました。

嫉妬を経験してすぐに『オセロー』を興行する行動力も普通に面白いし、ラストのあっさりすぎるガランスとカーニバルに浮かれた群衆にモミクシャにされるバチストの対比も意外性があって良かった。膨大なエキストラにも圧倒されました。唖然としたまま迎える幕はつまらないハッピーエンドよりよっぽど心に残ります。

字幕でこれだけ名台詞が目白押しですからフランス語が分かる人にはもっと面白いのではないかと思います。
midored

midored