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乙女の星のmidoredのレビュー・感想・評価

乙女の星(1945年製作の映画)
4.8
もうすぐ16歳の誕生日を迎える男爵令嬢シルヴィは夢見がちな乙女。自分のいる城にはハンサムな幽霊アランが住んでいるのだと頑なに信じていて、現実の男性にはまるで興味がない。城の財政難でアランの肖像画を売ってしまった父親はせめてもの償いにと幽霊俳優をやとって娘に幽霊を見せてあげようとするのだが…。

最高でした。少女が大人になる過程をロマンチックに描いているファンタジーです。『カイロの紫のバラ』の主人公のように、架空のキャラクターを推す気持ちが分かる人には特に刺さるお話ではないかと思います。

ストーリー展開は常に小粋で、時にドタバタで笑わせ、三角関係にキュンとさせ、最後にはホロリとさせてくれる、無駄なシーンが一つもない充実したエンタメでした。

甘ったるくて切ないテーマ曲も、子供時代に別れを告げる少女の気持とマッチしていて無限に味わい深いのですね。これぞ乙女チックです。『少女の友』など読んでいた女学生たちもこの映画で悶絶していたのではと想像したり。

舞台となるお城も異国情緒があって楽しいし、アクター犬たちも可愛いらしい。生きてる犬と幽霊犬が同時にちょこまかしているのを見ているだけで癒されました。

特撮はさすがにローテクですが、二重映しになった幽霊と幽霊犬が城を歩き回りながらちょっとした仕掛けをするところは素朴であるがゆえの素直な楽しさがありました。

執事が異様に大きな幽霊の本を朗読しながら幽霊の挿絵をみるたびにいちいち悲鳴を当げるシーンなどは無性に笑え、皆で幽霊を追いかけまわすシーンなんかも意味がわからなくて笑えますが、会話がいちいち粋なんですよね。コソ泥のセリフまでおしゃれ。こりゃ確かに「おフランス」なんて言って憧れてしまうよなと思いました。

一点、幽霊アランの死因が決闘死というのが気になりました。またかと。いかにもフランス貴族文化だなと『天井桟敷の人々』に続いて同じことを思いました。
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