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マザー!のnetfilmsのレビュー・感想・評価

マザー!(2017年製作の映画)
3.6
 業火に包まれ、叫び声を上げる女の姿、台座に置かれたクリスタルを大事そうに見つめる男の眼差し、寂れた家屋は見る見るうちに新しい部屋へ生まれ変わり、女は朝目覚めて隣に眠っているはずの夫を左手で触ろうとする。だが男の姿はベッドにはない。2人で住むには少々手持ち無沙汰なだだっ広い部屋は、夫を探すのにも苦労する。女(ジェニファー・ローレンス)は一部屋一部屋を噛みしめるように夫の姿を探し歩く。やがて屋外に出たところで、詩人の夫(ハビエル・バルデム)に後ろから声をかけられる。夢にまで見た幸せな新婚生活だが、詩人の夫はスランプにあえいでいた。彼の創作意欲が戻るまで女は、壁にペンキを塗り、リノベーションをして新しい部屋に生まれ変わらせようとしていた。そんな2人の蜜月生活をある日突然、一人の訪問者が一変させる。男性(エド・ハリス)の登場に夫は親切心を働かせるが、平和な愛の巣に土足で踏み込む男の姿を妻は快く思わない。男は体調が良くないようで、酒を呑んでもタバコを吸っても咳き込んでいる。そんな彼の元にあくる日、彼の妻(ミシェル・ファイファー)がやって来る。

 薄幸の妻の夢は夫との間に子供を作ることだが、スランプに陥った夫は勃起不全に苛まれている。幾つかのミスリードや、『ブラック・スワン』のようにヒロインの病的な心理で進む物語は、図式的な寓話物語として結実する。その正体は恐らく、旧約聖書のメタファーに他ならない。ジェニファー・ローレンスの姿はさながらマザー・アースであり、彼女の夫の詩人は創造主である神のようである。エド・ハリスとミシェル・ファイファーの中年夫婦はアダムとイヴの姿であり、彼らの歳の近い息子兄弟はカインとアベルに例えられる。禁断の果実をかじったミシェル・ファイファーはもっとセクシーな下着で夫を誘惑しなさいとジェニファー・ローレンスに進言する。2人の愛の巣に次々に訪問者がやって来て、夫婦の交わりの時間さえも奪われた妻は、カインとアベルの諍いで生まれた梁に染み込んだ血に悪夢を見る。オイルを備蓄した地下室では彼女の未来を暗示するような象徴的な出来事がヒロインを襲うが、彼女はたった1回のSEXで夫との子供を身篭ったと確信する。だがその後の展開は目を覆うような不快な感情に支配される。一見してハネケの『ファニー・ゲーム』のような物語は、崇高な精神を讃えているのだがその出来は幾分混乱しているように思える。
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