くりふ

ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリーのくりふのレビュー・感想・評価

4.0
【映画をスターばかりで見るのは愛がない】

某ツタヤ新作棚で見つけ、映画の芯が見えないが、アニメ多用風で楽しそう、とジャケ借り。…驚いた。ノーマークだったが、大変貴重なドキュメンタリー。ハリウッドはこういう人たちに支えられてきたんだね。

原題サブタイも“A HOLLYWOOD LOVE STORY”だが、表向き二人のラブストーリーでありつつ、しっかり映画愛も伝わってくる。

60年のキャリアを誇っていた絵コンテ作家、ハロルド・マイケルソンの名は、映画のメイキング本などでおそらく何度も、目にしていた筈だが、記憶には残っていなかった。コンテが大切な設計図だとはわかっていたつもりだが、描くのが作家よりオペレーターに近い、とどこか誤認していたことに気づかされた。

ある映画にて、1シーンを描き上げたら“よい映画になった”と満足し、完成したフィルムを未だ見ていない…とのコメントに作家のプライドを見た。完成品を、自分のイメージから改悪されるなら見たくない、との思いがあったのかもしれない。

とはいえ、映画監督のイメージを“見える化”させる大職人であるのは、監督や撮影監督からの信頼度からよく伝わり、勝手なアーティストぶりっこでは全くない。レンズへの知識も確かなものがありそうだ。

彼の目を鍛えたのが、パイロットとして従軍した、とある体験から…とのエピソードも、歴史の皮肉として興味深いですね。

ヒッチコックとの仕事紹介がとても面白かった。プリプロでしっかり仕込んで、撮影に入るとやることがない…とヒッチが嘯けていた背景には、こういう作家の存在もあったのですね。『鳥』また見たくなりました。

欲張ると、例えばニューシネマとヒッチコック映画ではコンテの作り方も違ったのだろうから、掘り下げてほしかった。でもこの辺は、文献出ていそうですね。今度調べてみようと思います。

奥さんリリアンの、映画リサーチャーの仕事にもただ感心。あのライブラリーに行ってみたい。デヴィッド・リンチがよく来ていたという話にへえー!几帳面だったそうだが、何調べていたんだろう?

夫婦2人の作品歴を振り返ると、そのままアメリカ映画史となるような、錚々たる映画群ですね。

内容について触れるのはこの程度にしておきますが、映画ファンならこういう“栄養になる愛の映画”をどんどん見るべきだと思ったし、どんどん作られて欲しいですね。まだまだ知られていないこと、たくさんあると思う。

日本でも、この二人に近しい人がいるなら、ぜひ映画界から光を当ててほしい。そして観客の、芯のある映画愛が育つ環境が整うといいなあ…などと思ったりするのでした。

<2018.8.27記>
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