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冬の旅のpsychocandyのレビュー・感想・評価

冬の旅(1985年製作の映画)
3.9
アニエス・ヴァルダ監督作品の初鑑賞。

フランス本国では評価も高く、興行面でもアニエス・ヴァルダ監督の最大のヒット作なのだそう。

この手の作品で引き合いに出される作品といえば「イントゥ・ザ・ワイルド」(2007)でしょうか。(というか、本作の方がずっと古い作品ですが…。)

「イントゥ~」との比較でいえば、本作「冬の旅」の方が、よりリアルで痛々しい感じ。そもそも、それぞれの主人公の“放浪”に対する動機が根本的に異なっています。前者の主人公クリスはどちらかというと「逃避」というよりも、「野生に還る(?)」的な結構マッチョな動機も少なからずありました。

女性の放浪を描いた別の作品でいえば「ノマドランド」(2020)も思い出します。同作の主人公ファーンには自らの「生き方」に対する信念みたいなものがありました。自らを「ホームレス」ではなく「ハウスレス」だと言い、物理的な「ハウス」を持たないだけで、心に自分の「ホーム」を持って、しっかりと自立して生きていました。

他方、本作の主人公モナの放浪の動機は、まさに「逃避」そのもの。怠け者で働かない。しかも、性格的にもかなり我儘で自己中。世話になった人に感謝の意も示さない。まさに社会不適合者そのものといった感じです。観ている人の多くは軽蔑こそすれど、同情することなど当然なく、感情移入すらできない。

ですが、そんな彼女の生き方に痛々しさを感じると同時に、アメリカン・ニューシネマでみられるような、刹那的で破滅的な儚さや切なさみたいなものを感じてしまう。

今でこそ、社会の中でうまく折り合いを付けれるようになり、すっかり飼い慣らされた大人になっているので それほどでもないですが、本作を社会に出る前の20代前半に観ていたとしたら、どうしようもなく影響を受けていたかもしれません。

そんな、すっかり大人になった自分を再確認できる作品でした。
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