ハルノヒノヨル

グリーンブックのハルノヒノヨルのレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
4.0
またもや門外漢であるために適切な評価ができない作品。
私はマイノリティとして生きていないから、この作品に対してあった批判の真意が理解できないのだ。たとえ賛同したとしてもわかったふりにすぎない。
なので、アメリカという国を外から見ているものとして感想をまとめる。

「白人の救世主」という言葉がある。この作品に対して向けられた批判にもあった。
トニーは「白人の救世主」であっただろうか。
粗野で学もなく貧しいイタリア系の白人・トニー。
そんな彼が黒人と身近に接し、黒人に対する偏見を覆して自分の中の差別心を払拭する。
これはそういう物語だと思う。
彼はひとりも黒人を救ってはいない。
ただ自分の中の価値観を変革させただけだ。
変革をもたらしたのはドン・シャーリー。
上品で博識、ピアニストとして名声も高く富豪の黒人・ドン。
「グリーンブック」を道標に差別の激しい南部を旅した彼こそが、黒人の自由のために戦った救世主だ。

差別には境界と階層とグラデーションがある。
どんな名声を得ても超えられない壁。それが差別だと考えている。
ナット・キング・コールがリンチされた事件を初めて聞いたし、フライドチキンがそういうものだというのも知らなかった。
人種差別について知っているつもりでいても、詳細な背景情報を私はまったく知らなかった。
白人の間でもエスニシティの差別がある。トニーはその中では被差別者で、自分が侮辱されれば怒りを覚えるのに黒人に対してはさも当然のように侮辱をしていた。
気づかないのだ。そういうものだったから。
北部とジム・クロウ法のある南部での、警官の対応の違いも印象的だった。
ドンの屈辱の旅は、歴史の中ではささいな反抗に過ぎず、焼け石に水をかけるようなものだったかもしれない。
けれど、虐げられていた黒人たちに爽快感を与え、そしてひとりの白人の意識を変えた。
なにかを劇的に変えることはむずかしくとも、ちいさな積み重ねが未来に繋がっていく。
作中にも描かれたアジア人差別が問題になっている今、見てよかったと思う。
ハルノヒノヨル

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