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童年往事 時の流れのnetfilmsのレビュー・感想・評価

童年往事 時の流れ(1985年製作の映画)
4.2
 主人公の阿孝は47年に広東省に生まれ、一歳のときに一家で台湾に移住した。村の子供たちの間でガキ大将的存在の阿孝の家族は、彼を含め五人の兄弟と、彼をとりわけ愛している祖母、そして両親の八人だった。村の子供の風景はどこへ行っても殆ど同じだ。今作をホウ・シャオシェンはあらかじめ自身の自伝的物語として、決別の為に撮った。大陸から台湾へ仕事で渡って来た父は台湾の空気が合わず、肺炎となり、ときおり吐血する父親の姿は、子供心に阿孝の心に小さな暗い影を落とす。大陸に帰る夢を抱いている祖母は、阿孝を連れて出かけたある日、村の茶店で梅江橋はどこかと尋ねる。しかし村人には祖母の方言など分かるはずもない。そんなある日、父親が死んだ。悲しむ家族の中で、阿孝の目の前で人一倍慟哭する母(梅芳)の姿が極めて印象的に映る。高校に成長した阿孝(游安順)は、村の仲間の間で依然リーダー的存在だ。異性への興味も増し、村の他のグループとの喧嘩でエネルギーを発散させる毎日。そんな折姉が嫁いでゆき、母も咽頭癌で入院し、家には男兄弟といまや90歳に手の届かんとする祖母だけが残される。

 第二次世界大戦後の国共内戦から家族を守ろうと、多くの家族が中国から台湾への移住を迫られた。平和と安全と引き換えに、自らの健康を害して行く一家の長の背中をずっと見続けて来た母親の苦労とは如何ばかりだろうか?若い頃は両親の苦労など見えず、ひたすらやんちゃに明け暮れるが、命の灯びはやがてこの家族の未来すら引き裂いて行く。祖母はずっと大陸中国での美しい生活へ戻ることを夢見ていたし、逆に父と母が見ていた世界はそれとは少し違っていた。そして台湾の地で幼少時代を過ごした主人公たちには、台湾の地こそが祖国だったのだ。コマ回しにビー玉や畳の雑巾掛けらが想起するいわゆるアジア的なノスタルジー。そして祖母と一緒に食べたかき氷。ホウ・シャオシェンは自分たちの家族の生活の細部を淡々とだが巧みに描写することで、自身の幼年期に別れを告げるかのようだ。食卓を囲む人々の移ろい行く姿と幼年期の旅立ちを記した今作で起きている出来事は、ほとんど昼ドラ的なメロドラマだが、地面に据え置かれたロング・ショットによる長回しの映像は一切の感情移入を巧妙に避けている。その淡々とした他者としての視点をもたらしたのは、今作が撮影監督デビューとなったリー・ピンビンであった。ここでホウ・シャオシェンとリー・ピンビンとは出会うべくして出会ってしまった。
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