Wacky55

ナイル殺人事件のWacky55のレビュー・感想・評価

ナイル殺人事件(2022年製作の映画)
3.7
2024年 6本目

2022年に公開、アガサクリスティの小説「ナイルに死す」を監督、主演を務めのケネスブラナーによって製作された作品。2017年に公開されたオリエント急行殺人事件の続編にあたり、また、原作を映像化にしたのは、本作が3度目であり、1978年の映画と2004年のテレビシリーズに続いて映像化された。

総合評価: 3.7

脚本/演出等: 3.2 
まず前作と比べれば、少しは良くなったかなとは思います。サラッとフラグ(例: 赤いインクや“新しい客がやって来る”)を取り入れた所は違和感もあまりありませんでしたので、良かったと思います。

ただモヤっとした所もいくつかはありました。まず、本作ではオープニングから、ポワロはなぜ探偵になったのか、そしてトレードマークであるカイゼル髭を生やした理由が描かれるのですが、う〜ん、なんと言うんだろう、愛そしてブルースその後のストーリーの流れに繋げようとしているのは分かるのですが、何か強引な感じに結びつけようとしているのにも見てとれました。

他にもストーリーの構造と展開。本作は殺人事件というより、殺人事件が起きるきっかけと流れにかなり焦点を置いていたように見てとれました。ストーリーの流れのアイデアは決して悪くはないとは思います、ただそこに重点しすぎたことによって、リネット殺害から解決までの流れがダイジェストというような感じになってしまい、ストーリー構造のバランスがあまり良くなかったのかなと思いました。もう少し前半から中盤(殺害きっかけ)の部分を削っても良かったんじゃないかなと思いました。

演技: 4.1
本作のメインキャストの演技はかなり印象的でした。ケネスブラナーらしさ全開のポアロはもちろんのこと、アーミーハマーもかなりのゲスさ全開なサイモンを見事に演じていたのも思いましたし、また、アクション系もしくはスーパーヒーローの印象がかなり強いガルガドットも、本作では美しきながらもどこかベールに包まれたリネットを全く違和感なく演じていて、とても良かったと思います。サロメを演じたソフィーオコネドーも、美しい歌声を持ちながら、ブルースシンガーということもあり、どこか哀愁が漂う彼女の姿に魅了されました。ただ個人的に本作のMVPだったのは、ジャッキー役を演じたエママッキー。どんなことがあっても、自分の人生をサイモンのために身を尽くす一人の女性を見事に演じ切り、特に鋭い目で訴える表情の演技はかなりインパクトがありました。エママッキーに持って行かれた、と言っても過言ではないでしょう。

カメラワーク等/アングル等: 3.4
前作と比べれば、かなり迫力さは増したのかなと思います。特にライティングに関しては、様々なライティングを使用した所は好評価してもいいでしょう。過去や回想シーンでは使用されたモノクロとキアロスクーロ、ナイトクラブシーンでのPractical lightingは、人間関係の独特なその場での張り詰めた緊張感を非常によく表現しており、

カメラワークに関しては平均的と言っても良いでしょう。オープニングシーンでのPOV shotもしくはhand held cameraは、ベルファストを思わせるような魅力的なカメラワークでもありましたし、full shotによるクルーズ船でのパーティーのシーンもハムレッド(1995)を思わせるような、ブラナーらしい独特な雰囲気がありましたし、そのうえナイトクラブ、高級ホテル、アブシンベル神殿でのカメラワークは全体的に悪くはなかったのかなと思います。

ただ残念だったのは、尋問シーンやサイモンとジャッキーの口論の場面。Close up shotがtoo muchであり、尋問シーンでの旋回ショットもちょっとラフさもあって、厳しいことを言えば、”うるさくてしつこかった”。個人的にはあまり好きではありませんでした。

他にも残念だなと思ったのは、rear projectまたはバックプロジェクションくささが映像に出ていましたね、物語の終盤では違和感はありませんでしたが、ピラミッドを眺める場面や日中時のクルーズ船でのシーンがかなり出ていたなと見て思いました。

編集等: 3.4
まず音響に関しては、全体的には悪くはなかったと思います。オープニングシーンでの第一次世界大戦でのサウンドエフェクトの迫力さは凄まじかったですし、他にも登場人物の声や水の流れる音が非常に鮮明で、とても良かったと思います。

Cuttingに関しても大半は悪くはありませんでしたが、アンドリューの尋問シーンではカッティングのテンポ感があまり良くなく、突然千切りのような刻みになっていったため、ちょっと見ていてぎこちなかったです。

美術/衣装等: 4.5
セットに関しては、まず豪華客船カルナック号は本作のために実際およそ7ヶ月で制作されたものであり、クオリティが非常に高い。煌びやかな客室やロビーも素晴らしく、アガサクリスティの世界観が見事に表現されていてこれは高評価するべきだと思います。

そのうえ衣装も非常に魅力的。例えばナイトクラブでのリネットとジャッキーのドレス。赤いドレスを纏ったジャッキーは、情熱的もしくはパッションが強いという彼女の人柄を表し、一方で銀色のドレスを着たリネットはwealthを一番に考えながら、どこか繊細もあるという彼女のパーソナリティを表現しているように見えました。衣装のカラーリングによる “この対比さ”も非常に見応えがありました。
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