のわ

Summer of 85ののわのレビュー・感想・評価

Summer of 85(2020年製作の映画)
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性別なんてないみたい


16歳と18歳の恋愛と聞けばなんとも初々しく、プラトニックである。僕のなかでそんな先入観がある。しかし、実際のところ彼らは僕たちが思っている以上に大人びているし、苦しんでいる。冒頭のアレックスの突き刺すような目付きと寂しげなストーリーテリング、大人になっていくって言うのは表情を獲得することでもあると思う。無表情と言うのは、おそらく雄弁に語っている。

LGBTQを扱う多くの作品は社会的マイノリティーであるがために理解されず、一層苦しんでいく。しかし、本作では、そのような苦悩は一切なく二人を隔ててしまったのは誰もが抱えている死だった。アレックスは男性のなかに女性を宿しているような感覚を持ったが、それに意味はないように思える。まるで性別なんて最初から無かったみたいに、そこに転がる鉱石のようで、ただそこにあるのが心地いい。

ポジティブを正数だとして、ネガティブを負数としたら、負数は一定の値を越えたら、値が大きくなればなるほど生きる力になる。かつての僕がそうであったように、正数はもちろん値が大きくなるに越したことはないし、生きることが楽しくなる。しかし、ネガティブがもたらすものはポジティブよりずっと多い。そうやって獲得したものは決して弱さではない。アレックスもきっとダヴィドの死を受け止めて、何かしら心に宿していると思う。だから、彼が約束を果たそうとした瞬間から、あんなに大人びている顔つきになったんだと思う。


僕は血や死に向かう瞬間が苦手なので、アレックスがダヴィドのあとを追うシーンを長らく視線をそらしていた。見直す予定もないし、見たいと思っても僕の体はおそらく許してくれない。だからそこはすごく悔しい。
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