Melko

私は白鳥のMelkoのレビュー・感想・評価

私は白鳥(2021年製作の映画)
3.9
「あの子には名前つけないんですか?」
「名前をつけると死んじゃうっていうジンクスがあるそうで、それが嫌で…」

「命があるだけオーケーか。お互いにね」

富山。
あるおじさんと、翼が折れて飛んで帰れなくなった一羽の白鳥の、3年の月日。

この、白鳥に魅せられたおじさんが、私の父親と同い年でねぇ。なんか他人事とは思えなくて。(うちの父親は生き物好きじゃないが)
おじさんは両親を既に亡くし、独身で、子供もいない。兄弟の有無は分からなかった。多分いない?
働き盛りな20代後半で、父親からの頼みでサラリーマンを辞め、家業を継いだ。
学生時代は陸上部。でも成績が芳しくなくて、撮影係になり、そこからカメラが好きになったのだそうな。
NHKドキュメントとかでやってそうな、人間と動物の交流モノ、60分ぐらいで終わりそうな話を、100分も使って成立するのは、そして、うんうんと私が見れたのは、このおじさん(澤江さん)の語りやエピソードが興味深く見れたからだ。
交流といっても、澤江さんは白鳥を手なづけたりはしない。エサの米は投げてやるが、あくまで遠くから撮影し見守るだけ。そのうちに、澤江さんの心は白鳥になっていく。
羽ばたきを模した筋トレをし、傷ついてうまく飛べない白鳥のために涙を流し、一生懸命声をかけて応援し、飛びたったら車を走らせて追いかける。
身体が人間なだけで、私は白鳥なんです
と。

夏暑い日も雪の降る日も、毎日「仲間の」白鳥のために外へ出て、静かに見守り撮影する。
こんなに情熱を傾けるなんて、なんならちょっとした狂気だし、常人には理解できない。
でも、勉強もスポーツもできたのに、色々なことを諦めてきた彼のこれまでの人生と、人生の終盤手前に来た人間が溢れる情熱を傾けられる存在と出会えたことを考えると、なんて幸せで素晴らしいことなのかと思う。

できれば、元気に飛び立って帰ってほしい
でも帰れない
命は一度きり。人間も、動物も
せめて楽しく生きてほしい

体の無理を押してまでの情熱
でも自分の健康を1番に。それからだ

いくつもの無駄足を耐えた先にある小さな奇跡
そのまた先に、自然の辛さを乗り越えて命を繋ぐ生き物の大きな奇跡の姿がある

いつも質素倹約なのに、水草整理にと9万のボート買ったり、餌にと17万の米を買ったり、白鳥のこととなると金銭感覚が狂う澤江さん笑

自分の子供、仲間なんだなぁ
BGMが私の好きなケルト音楽なのも良き◎

そして何より、エンドロールの一発目が
出演・撮影 : 澤江弘一
なことに、最大限のリスペクトを感じて嬉しい
Melko

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