Hashingo

Mothers' Instinct(原題)のHashingoのレビュー・感想・評価

Mothers' Instinct(原題)(2024年製作の映画)
4.0
人間誰しも、他人からいぶかしがられる異常な振る舞いをする傾向がある。とりわけ「母親」という存在は、その異常さを増幅させ、過剰なものにしやすいのだろう。その原因を突き詰めれば、母性本能(というと誰にでもありそうなのでやはり「母親たちの本能」が本題の訳に適していると思う)というテーマがこの映画の底流にあるテーゼではないかと思う。製作期間が1ヶ月未満という厳しい条件下でありながらも、この「シビア」な作品を完成させたスタッフたちに心から賛辞を送りたい。特に監督と主演の大女優2名、アン・ハサウェイとジェシカ・チャステインは、経験的にも年齢的にも、この作品に引き寄せられるようにして出演したのではないかと思わせるほどの魅力を発揮し、観客に充実感を与えてくれる。

考えてみれば、この2人が共演した映画といえば、クリストファー・ノーランの『インターステラー』以来ではないだろうか。とすれば、10年来の再タッグということになる。しかし、『インターステラー』ではお互い宇宙に行ったきりで、直接顔を合わせる場面がなかった気もする(…?)。いずれにせよ、今回の共演は見逃せないものである。

ただし、今日の観客がこのような作品の意義をどのように捉えるかは疑問である。おそらく多くの人には無視されるのがオチであろう。絶望感もなければ希望もない、ただある時代の風景――1960年代後半、ケネディ暗殺後のアメリカ、ロックンロール全盛期の一部――を描いた作品に何の面白さがあるのか、と考えるのが自然な反応かもしれない。ここで映画好きの評者としては、「まあとにかく観てみる」ことをおすすめする。何が面白いかどうかは、映画を見終わった後に考えるべきで、自分の体験はその体験に先立って起こらないのである。映画への関心を抱く「入り口」は人それぞれである。評者自身も、作品の内容に特別な興味があったわけではなく、名女優2人の共演を劇場で観られる機会はそう多くない、という程度の理由で鑑賞したに過ぎない。しかし、映画体験から得られるものは、確実にその期待という凡庸さを超える価値を持っている。…と、このように言葉を重ねて語ること自体も、いつか時代の限界が来るのだろうと理解しつつ、それでも残しておきたいという欲求に駆られるのもまた人間である(などと中島敦風に述懐してみる)。つまるところ、もう少し気楽に映画を観てほしい、というのが率直な思いである。

最後に2つ付記しておきたい。
一つ目は、アン・ハサウェイが演じるセリーヌの夫役である。彼は『いまを生きる』(Dead Poets Society)のノックス・オーバーストリート役で知られる俳優であり、最近ではテイラー・スウィフトの『Fortnight』のMVにも出演していたが、これがまた非常にハマり役であった。
二つ目は、素晴らしい作品を作りながらもプロモーションが上手くいかなかったのか(あるいはアンとジェシカが多忙だったのか)、インタビュー映像がネット上に極端に少ない点が非常に残念である。実際、この2人はどう見ても仲が良いようには思えない(笑)。ディカプリオとブラッド・ピットが仲良さそうなのは容易に想像できるが、この2人は難しそうである。特に、苦労して育ったジェシカは尖った一面がありそうだ(あくまで推測だが)。こうした視点から逆算してみると、この作品の製作期間が短かった理由、プロモーション不足、そしてインタビュー映像の欠如といった微妙な部分も、「なるほど、そういうことか」と納得してしまうのである。
0件

    いいね!したユーザー

    Hashingo

    Hashingo

    A cinephile. Films that shaped my thoughts: Dead Poets Society (1989) / Princess Mononoke (1997)/ …

    A cinephile. Films that shaped my thoughts: Dead Poets Society (1989) / Princess Mononoke (1997)/ Gangs of New York (2002) / Into the Wild (2007)