教授の息子バンジャマン、外国人で苦労人のアブデル。対照的な新米インターン医師を軸に描かれる医療現場の現実。
映画は端的に的確に、病院を一つの社会組織として捉えていた。食堂の絵や罰ゲームはホモソーシャルの縮図、安月給で過酷な労働、患者もインターンも看護師も弱い立場に損な役回りや皺寄せが来る。バンジャマンはサイズの合わない白衣=大きすぎる責任に直面してオロオロするが組織に守られ、家族や人生を背負ったアブデルは患者に親身に寄り添い、組織のルール、不公平や不正に対して異を唱える。だがアウトサイダーである彼を組織は守ってくれない…。
口を尖らせた甘ちゃん顔で青臭さ満点のヴァンサン・ラコスト、渋く優しい微笑みのレダ・カデヴが最高にはまり役!ていうか、この組み合わせなんて思いもしなかった。境遇は違えど志は一緒、時に師弟だったり、同志だったり、親友や兄弟みたいなバディ関係を築いていくのがすごく良い。
そして、入り組んだ迷路のような院内、ごちゃごちゃとした書類の山、シミのついた白衣、落書きだらけの宿直室、予算不足が一目でわかる、つまりボロい病院施設のディティールがリアルだ。そこで日夜働き続ける医療従事者たちは、ストライキも当たり前(ダクトテープ素晴らしい!)。医療過誤や延命措置の深刻な問題と、労働環境は直結してる。だから憂さ晴らしも連帯もする組織の歯車たちの生身の姿を、映画は美化しない。
終盤意外な展開の中で、フランスらしいなと思うのは、労働者は本来強いぞと見せることだった。あらゆる立場の医療従事者が口々に吐き出す不満、怒り。怒るんじゃなく賢明に…などと口を挟む人は必ずいるけど、そこでアブデルの反撃がまた良い。組織に守られまいと、誰だって弱くいる必要はないんだよ。
白衣のサイズと自分のサイズ、小さな戦いを日々続けていく覚悟と支える連帯の心強さ。シミや煙、落書きにまみれてまた歩き出す廊下。熱い青春&労働映画だった。
しかしつい患者側視点になってしまい、ああ入院とかしたくないわな…でもお世話になるならカデヴ先生がいいな…とか思ってた。