ヨーク

マンティコア 怪物のヨークのレビュー・感想・評価

マンティコア 怪物(2022年製作の映画)
3.7
あのインパクト抜群な『マジカル・ガール』でお馴染みのカルロス・ベルムト監督の最新作ということだったので、この『マンティコア』もきっとヘンテコでいて強烈な映画なのだろうと思っていたんですが、結論から言うとそれは半分正解で半分間違いといった感じの映画でしたね。ただ多くの人にとっては『マジカル・ガール』ほどの強烈なインパクトはないのではないかなーという気はする。ただ意表を突かれる展開自体はあったのでそこはやっぱカルロス・ベルムトって感じではありましたね。
お話も割と普通というか、主人公はテレビゲームの製作会社の社員で主にモンスターなどのクリーチャーデザインを担当しているオタク青年なのだが、ある日お隣のアパートの火事に遭遇してその家の男の子を救助することになる。ご立派。そんな彼が美術史を学ぶ女の子に出会って彼女と淡い恋愛関係になっていくのだが、それと同時に主人公は時折謎の発作(医者が言うには心因性のもの)に悩まされていく、というのが本作の主なストーリーである。
ちなみに俺は本作に対しては予告編すら見ていなくて、テレビゲームのクリーチャーデザインをやっている男が主人公という設定しか知らずに観たんですが、その事前情報の少なさが功を奏したのか上記したように一応終盤におぉ! そう来るか! というびっくりどっきりは味わえたんですけどもしそこら辺の要素を事前に見聞きしていた人ならここに来てやっとかよ!! くらいの感想になったのではないかと思う。というのもこれもすでに書いたことだが本作の尺のほとんど、多分8割くらいは内気なオタク青年と美術女子のちょっとやきもきするような恋愛映画なんですよ。それもセックス! セックス! 三角関係! その後またセックス! みたいなノリノリで肉食な感じではなくて地味というか慎ましいというかお淑やかというか、結構純愛な感じの関係性が描かれるんですよ。
主人公だって売れっ子デザイナーでイケイケな感じというわけではなく内気で人見知りで携帯の着信音を『魔界村』のBGMにしていたり伊藤潤二のファンだったりするようなぼんくらなオタク野郎なのでついつい感情移入してしまったりもする。女の子の方も如何にもサブカルガールといった風情で割とお似合いで微笑ましい感じすらするのである。
もちろんそれだけで終わらないのがカルロス・ベルムトなのではあるし、後半の展開に関してもちゃんと前半で伏線も貼られてはあったのだが、その展開の仕方というのがだね! ここネタバレになるから伏せておくが、妙に生々しくてそういうの実際のゲーム会社でもありそうだな~、って感じのあるある感を出してきているのが、それ笑っちゃうだろ! っていうトーンでお出しされるんですよね。いや『マンティコア』というタイトル通りに自身の中に潜む怪物と対峙するというテーマは分かるし、本作のモチーフやお話し自体は超が付くほどにシリアスなんだけど、その発端があるあるネタ的な感じで展開させるのはこれ笑わせにきてるだろ! と思っちゃったんですよね。
尺全体のタイミングとしても本当に最後にそれがぶっ込まれてくるからそこら辺の印象として、慎ましく見守りたくなるような恋愛モノかと思ってたらマジかよ! ってなるし、逆にネタバレとまでは行かなくともそういう主題の映画なのだと知っていたら引っ張り過ぎだろ! ともなるような気がするし、やや中途半端な感じはするかなーという気はしたんですよ。その辺が最初に『マジカル・ガール』みたいな分かりやすい強烈なインパクトを期待したら半分辺りで半分外れになるっていうところですかね。
個人的には中盤辺りで後半の展開をやって、その先をもうちょっと観たかったなという気がした。でもそれだとペドロ・アルモドバルじゃん! って感じになるので避けたのかもしれないが…。ま、面白かったのは面白かったんですけどね。
何にせよ他人の言えないような欲望(自身では認識していないようなことも含め)を抱えながら生きているような人には結構刺さるのではないだろうか。恋愛パート長すぎでまどろっこしいところはあるものの、そこさえ乗り越えればちゃんと見所のある映画でしたね。
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