ヨーク

デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章のヨークのレビュー・感想・評価

3.8
デ♪ デ♪ デ♪ デストラクショ~~ン♪ と歌われるエンディングテーマの余韻が印象的な『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』(なんつータイトルだよ…)ですが、いやー、思ってたよりは全然余裕で面白かったな。正直そんなに期待はしていなかったのでうれしい誤算であった。大体がそもそも俺は浅野いにおがそんなに好きじゃないんですよ。まぁ好きじゃないと言っても嫌いというわけでもなく、そもそも『ソラニン』と『おやすみプンプン』の両方の第一話だけを読んで、なんか気に食わね~~、と思ってそれ以上は読まなかったという印象しかないから好き嫌い以前によく知らんという感じなんですよね。まぁ1話以降読み進めなかったわけだから第一印象はあんまりよくなかったということは言えるだろうが。そんな感じで浅野いにお全然好きではなかったから本作の原作も未読です。
でもこの『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』は中々面白かった。とりあえず後編も観るわ、となるくらいには面白かったのである。ま、最後まで観たら、やっぱつまんねーじゃねーか! ってなる可能性も大いにあるのだが現時点では、俺浅野いにおくんのこと誤解してかもしれへんな…と思ってしまうくらいには面白かったですよ。まぁツッコミどころもノリがキツイなと思うところもあるにはあるのだがちゃんと強みのある映画で客をガンガン日常から地続きの非日常な物語の中に連れて行ってやろうという気持ちを感じる作品だったんですよ。それは要するにSF作品として面白かったということでもある。ここが一番意外だったな。
いやなんか完全にイメージだけで語ると、浅野いにおとか社会経験がなくてしかもメンヘラ寄りなガキに何の中身もなくそれっぽい雰囲気だけのポエティックな表現で寄り添っている風な空気を醸し出しながら、君にはオンリーワンの価値があるんだよ、といった感じの小賢しい寝言をほざいているだけの作品を描いているんだろうというイメージだったんですよ。我ながら酷く歪曲されて無意味に被害者意識の強いイメージだと思うが。でも本作の雰囲気はやたらと若者に寄り添って共感に訴えるところはあれど、ちゃんとSF的なアイデアで作中の世界を俯瞰として描いている部分はあったんですよね。そこはシンプルに面白かったしちょっと意表をつかれたところだった。
ちなみにお話は、日常系『インデペンデンス・デイ』とでも言った感じのものでした。ある日突然東京上空に超巨大な宇宙船? のような巨大な飛行物体が現れてすわ宇宙人の侵略か!? となるのだが特に何も起こらずに数年が過ぎ、その何かとんでもないことが起きそうだったのにそうはならずにただ日常が続いていくという世界の中で高校生をやっている女の子たちのお話になります。ま、話が進めば異星人らしきキャラクターが出て来たり政府の宇宙船に対する対応とかが展開されて色々な出来事が起こるのだが、少なくとも前編の大部分はダブル主人公である二人の女の子の日常にフォーカスが当てられる。
これ原作漫画がいつから連載してたのかは知らんが、明らかに東日本大震災を受けてのものであろうと思われて、いわゆる震災のアフターものとして描かれている。そん中でも特に俺が好きなのは(何であの時に終わらなかったんだろう)という破壊衝動の不完全燃焼感の中で燻ってる若者が描かれていたからなんですよね。それが単なる幼稚な破滅願望であるというのは自覚したうえで、こんな凄いことが起こったのならもう一声さらに一歩先に進んで全部ぶっ壊れちまえばよかったのにな、と思ってしまう若者ゆえの浅慮な短絡さと切なさと無力感がとても良く描かれていたんですよ。そこはストレートに好きだったな。
主役の二人は10年どころか3年も経てば黒歴史だとか中二病だとか言われるような痛々しさに溢れているティーンエイジャーなのだが、それは実は彼女らがバカだからというだけではなくて(バカだからという部分もあるが…)どうしようもない焦燥感と切実さの中で生きているからなのである。おっさんになってしまった今の俺に言わせればそんなのは単純に視野が狭いだけだってことではあるのだが、その狭い視野の中で彼女らは自身の苦しみや悲しみや孤独や不自由さを世界そのものに重ね合わせながら生きているのである。その空気感が見事に描かれていたので、まぁこれは大したもんだと思いますよ。俺はもうおっさんだからそこまでのめり込みはしなかったが、高校時代にこの原作漫画に出会っていたらドハマリしていただろうなとは思う。
しかしタイトルにもあるように本作は前編なので物語に関しては後編を観るまではなんとも言いようがない。もしかしたらオチが気に入らなくてボロクソに文句を言うかもしれないが、少なくとも前編だけでは良いも悪いも言えない。でも現時点ではちょっと期待してしまうくらいには面白かったですね。物語上の大きな謎は後編に持ち越しになっているのだが、どうなるんだろうなというのはちょっとワクワクしています。個人的には本作の中盤から後半にかけて描かれた過去編が現在とどう繋がるのかが気になるな。あれどう見てもストレートには繋がらないだろうから、そこにどういうアイデアがあるのかに期待したい。先に書いておくとパラレルワールドだったらかなりがっかりする。ループものだったらもっとがっかりする。ま、でもそこは後編の楽しみなので素直に期待しておきましょう。個人的にはデストラクションの極みとして人類全滅エンドがいいなぁー、と思っています。
まだ現時点では俺の中の浅野いにおイメージが完全に引っくり返ったとは言えないが、後編の面白さで俺の手の平を完全にくるりんぱと回転させてくれ! それくらいは期待しているぞ!
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