ヨーク

クラユカバのヨークのレビュー・感想・評価

クラユカバ(2023年製作の映画)
3.6
先日感想文を書いた『クラメルカガリ』からのハシゴで観ました。
そちらの感想文でも書いたのだが塚原重義作品としては本作『クラユカバ』が長編デビュー作ということになるので俺は2作目→1作目という順番で観たということになる。まぁとはいえ『クラユカバ』と『クラメルカガリ』は同時上映で特に前編後編といった物語的な繋がりもないのでどちらから観ても大した問題はないのだが。ちなみに本作は上記したように塚原重義監督の長編デビュー作となっているが尺は『クラメルカガリ』と同じく60分なので、厳密に上映時間の定義があるわけではないが個人的には長編というよりは中編かなという感じはする。
ま、その辺はどうでもいいところではあるが本作も『クラメルカガリ』と同様に監督の趣味丸出しであろう要素のオンパレードで、俺がアニメ映画を作れるならこうしたい! というオタクなら誰でも一度は考えたことであろう夢を詰め込みまくった作品になっているのであった。その濃度というのは『クラメルカガリ』の方よりも本作『クラユカバ』の方が上で、『カガリ』の方も大概だとは思ったがこちらはそれ以上に趣味全開の夢絵巻といった風情の作品であったと思う。『カガリ』の方の感想文でも書いたようにこの両作はクラファン映画でインディーズ色がかなり強いものなのでその辺色々と融通が利いたのであろう。好きなことやってる感が満載でオイオイと思いながらも楽しく微笑ましい映画であった。
お話はシンプルなもので『カガリ』の方がボーイミーツガールものだったのに対して『ユカバ』の方は探偵もの。世界観は共通した感じで大正モダンな雰囲気とスチームパンクを合わせた雰囲気である。主人公はそんな街で探偵を営んでいるのだが、依頼の失せ人を探しているとそれが街を賑わせている集団失踪事件へとつながりその舞台は地下鉄の路線に沿って街の地下に縦横に広がる“クラガリ”と呼ばれる地下迷宮へと続いていく…というお話です。
様々なアニメ、漫画、ゲームの影響を感じるのは『カガリ』と同じくだが、本作は特にゲームっぽい感じがしたな。本作は60分の尺なのでやや詰め込みすぎなお話が駆け足気味に展開されるのだが、ゲームで言うならばチュートリアルも兼ねた第1章から導入部分の第2章くらいまでって感じのところで終わるんですよね。この後本格的にクラガリの探索が始まって、各エリアをクリアしたらそれらが拠点化されて新たな仲間が増えて色々な要素が解放されていく…という感じでまだまだお話は続きそうな感じなんですよ。あー、そういうのやりたいっていうのはめっちゃ分かるわー、と思いながら観ちゃう感じの映画でしたね。とはいえ物語の本筋自体はスッキリ終わるので特に不完全燃焼感とかはない。
地下空間を駆け抜ける装甲列車とかその部隊を指揮する如何にもいわくつきの過去がありそうな隊長の少女とか、かつて有名な探偵であったらしい主人公の父親とかいう要素がそういうの好きなんだね、分かるよ…といったノリで描かれるのである。正直お話自体は地下世界であるクラガリと人間の心の闇的なものを重ねて描くだけでそれほど深みのある物語というわけでもないのだがやりたいことやってる感が非常にいい意味で好ましく映るタイプの映画であった。中編映画の完成度としては『カガリ』の方が上ではないかと思うが、監督の好きなもの詰め込み具合としてはこの『ユカバ』の方が上ではないかなっていう印象でしたね。
ちなみに『カガリ』と『ユカバ』はどちらも3.6という同じスコアになっているが、シンプルに掌編としてまとまっているのは『カガリ』の方だが『ユカバ』はバランスは悪いけどこれをやりたい! というパッションが全開になってる感じが出来の善し悪し以上に好感触で好きっていうところがあり、トータルでは同じくらいかなっていう感じでした。
ただ共通して言えるのはどちらも色んな要素を詰め込み過ぎで後半が駆け足展開になることはあるだろうか。この監督が100分くらいの尺で商業映画を撮ったらどうなるのかな、という興味はあるので是非またスクリーンで観たいなとは思いますね。中々面白かったです。
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