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クラメルカガリのヨークのレビュー・感想・評価

クラメルカガリ(2024年製作の映画)
3.6
ヒューマントラストシネマ渋谷で死ぬほど予告編を見た(多分50回くらいは見た)『クラユカバ』と同時上映している姉妹編の『クラメルカガリ』ですが、中々面白かったです。なんでもその筋では気鋭のアニメ作家として知られていた(寡聞にして俺は存じていませんでしたが)塚原重義が短編アニメの制作を経てクラウドファンディングも駆使して実現したのがこの『クラメルカガリ』と『クラユカバ』の二本だそう。なので本作はそこそこの規模のスクリーンでかけられる商業映画ではあるものの、かなりインディーズ色の強い作品であるとも言えるだろう。かなり有名なアニメスタジオが参加してたり超有名声優が出演していたりもするのできっとプロデューサーが超凄腕だったのだろうなぁ、とも思ってしまうが。
ちなみに監督である塚原重義の第一作目として喧伝されているのは『クラユカバ』の方で本作『クラメルカガリ』は第二作目ということらしい。ま、世界観は共有されてるっぽい感じはするものの直接的に物語が繋がっているわけではないのでどちらから観てもいいとは思うが、俺は第二作目の方から観たということですな。んで肝心の映画の内容がどうったのかというと、監督の趣味丸出しであろう要素のオンパレードでありながらも中々手堅くまとまった良い中編であった。あ、言い忘れてたが本作はランタイム60分の映画なのでやや長めの中編というくらいですかね。これは『クラユカバ』の方も同じランタイムなので二本で一般的な映画一本分の尺といったところであろう。
お話。物語の舞台は通称“箱庭”と言われる炭鉱町。そこは泰平という名の巨大企業が牛耳るあらゆる意味での縦型都市で、主人公のカガリはその町の下層で地図を描くことを生業にしている少女。この町は炭鉱町なのだが至る所に虫食いと呼ばれる穴がありどんどんそれは拡大していってその全貌を把握している者はいない。そこで地図を書くということが生業になり得る、という設定である。その複雑怪奇に入り組んだ町と炭鉱の穴倉の中で生きる少女と少年が少しだけ大人になるといったジュブナイルでボーイミーツガールなお話である。
その世界観というのが上記したように監督の趣味丸出しな感じで実に良かったな。明治から大正辺り、さらに付け加えればビクトリア朝後期くらいの時代イメージの異世界でスチームパンクでごちゃごちゃとした猥雑な町の雑踏と共に孤児の少年少女が生きているといった風情の世界観なのである。ビジュアル的にはスチームパンクだが階層によって住んでる住人の属性も分かたれた町の設定なんかは『FF7』のミッドガルとか『銃夢』の屑鉄町とザレムの関係なんかを思い起こさせる。というかぶっちゃけその辺がネタ元なのではないだろうかと思ってしまう。
そういった世界観で少年少女の成長譚だったり多脚メカが活躍する銃撃戦だとかがスラム風の雑多な飯場町で展開されるのである。これはまぁ好きになるよなって感じである。そこら辺の好きなことやってんなぁ感は微笑ましくもあり羨ましくもありでいいものでしたよ。昨今映画館で大ヒットを飛ばすアニメ映画はほとんどが原作モノなので、オリジナルでここまで制作側の趣味丸出しな作品を観られただけでもうれしくなってしまう。
お話的にはまぁ上記したように60分の尺なのでこじんまりした感じだし、さすがにちょっと詰め込みすぎだろという感じで構成の上手さとかは感じなかったのだが特段悪いところもなく無難な仕上がりになっていましたよ。
架空のスチームパンク世界でボーイミーツガールというワードにピンとくるような人なら楽しめるのではないだろうか。あと主人公のカガリちゃんのデザインが個人的に好きだった。片目隠れ少女が主役なのは最近あんまりなかったんじゃないかな! 中々面白かったです。
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