ヨーク

成功したオタクのヨークのレビュー・感想・評価

成功したオタク(2021年製作の映画)
3.2
題材が中々興味深かったので結構期待していたんですが、結論としてはダメでしたね。というわけで個人的にはイマイチな『成功したオタク』でした。いやでもドキュメンタリー映画としての題材はホントに面白そうなんだよ。まぁそれだけにちょっとがっくりきてしまったというのはあるんだが…。
内容は、監督であるオ・セヨンはあるK-POPスターの熱狂的ファンでテレビ番組で共演もしたことがある有名なファンだったらしい。タイトルである「成功したオタク」というのはそういう風に推しに認知されたファンという意味もあるようだ。だがそんな楽しい日々は突然終わりを告げる。監督の推しが性加害で逮捕されたことによって。自身が今まで推していたスターが犯罪者になったことによって自身も犯罪者のファンになったのだとして苦悩するオ・セヨン。その混乱の中で彼女は彼を推していた自分自身も加害者なのではないかとさえ思い詰めるようになる。そして一念発起した彼女は「推し活」が人生の全てだった過去を振り返りながら様々な考えを持つファンの声を直接聞き、自分の「推し活」とは何だったのか? を問い直すというドキュメンタリー映画である。
いやでもやっぱそういう内容だけを書き上げると面白そうな映画じゃんって思うよな。だが残念ながら上記したように本編はイマイチな感じだったんですよ。観てる間も観た後も色々と考えてみたが、その最大の理由というのはやっぱこれかなぁと思うのだが、ドキュメンタリー映画というものにも色々あるが本作は極めて主観のみで構成されていてもうちょい俯瞰の視点で描いてほしかったなぁというのが第一の不満でしたね。要はあれなんですよ、映画のほとんどの尺を埋めるのは大好きな推しが犯罪で捕まって悲しー! というショックを受けたファンたちがお互いにそれが自分たちにとって如何に重大な出来事だったのかを傷の舐め合いとして馴れ合ってる姿を撮ってるだけなんですよ。それは流石に余りにもしょうもなさすぎるだろ! って思ってしまうよ。こっちとしては資本主義的に超スピードで大量に消費されまくる推し文化の中で宗教的ともいえる情熱を持って対象にドハマリしていく人間の心理やその構造、そのことの功罪なんかを一歩引いた目線から観たかったんだから。
でも本作は全然そんな作りの映画ではなかった。一言で言えば幼稚。そもそも自分の推しのアイドルとかが逮捕されたからといって人生の一大事のように取り乱してしまうこと自体が幼稚なのだが、本作の監督であるオ・セヨンは最後まで自身のその幼稚な姿を客観的に捉えることはできていなかったように思う。同情と憐憫を求めながら同じ立場のファンたちと交流している姿というのは彼女の人生の中に於いては重要なことだったのかもしれないが、それはただの個人的な感情の区切りのために必要だったというだけのことでわざわざ映画にするようなことじゃないだろ、って思ってしまいましたね、俺は。
俺が期待して観たいなぁと思っていたのは、上記したように宗教的な熱狂が資本主義と合一した先にある、非常に現代的で先端的な信仰の形とSNSを始めとしたデジタルメディアとの関係、そしてそれらの信仰を失ったときの棄教ということだったのだが、とてもとてもそこまで迫った映画にはなっていなかった。
なのでまぁ期待外れで大して面白い映画ではなかったのだが、しかし監督であるオ・セヨンはまだ20代前半で特に映画監督を志していたわけでもなく、作中で描かれる推しの逮捕ということに思うところがあって一念発起し、本作を撮ったということなので大体がほぼ素人の個人的な映画ではあるのでそこまでボロクソに言うのもどうかなぁと思ってしまうところもある。実際、現代社会を捉えたドキュメンタリー映画ではなく、ただ推し活に全てを捧げた青春モノとして観れば割と面白いところもある作品だとは言える。特に朴槿恵パートはちと笑ったな。
だから要は出来の良いドキュメンタリー映画というよりも推しのために生きたけどそれが裏切られてショック! という感情をエモく共有するためだけの映画なんですよね。そういう意味での現役の若者のリアルな感情というのは見て取れるのでそこは観どころではあるのだが、それ以上は特に面白いところはなかったなぁって感じでした。
監督と同年代で好きなアイドルとか声優とか芸人がスキャンダルを起こしたことがあるっていう人にはエモの共有として楽しめるかもしれないですね。
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