ヨーク

孤独のススメのヨークのレビュー・感想・評価

孤独のススメ(2013年製作の映画)
3.9
ほんとに何となく時間が合うからというだけで観た本作『孤独のススメ』なんですが、面白かったですね。中々の拾い物をしたという感じ。これは観てよかったわ。
本作はオランダの映画とのことだが映画好きの人に分かりやすく説明するならアキ・カウリスマキやミカ・カウリスマキっぽい感じでフランスやイタリアやスペインといった西ヨーロッパ映画というよりも北欧映画といった趣きの作品であった。監督と脚本を務めるディーデリク・エビンゲという人のことは寡聞にして存じ上げなかったが、多分カウリスマキ兄弟のあの空気感は意識してんじゃないだろうかなと思う。そういう感じなのでカウリスマキ作品が好き、特に直近でもミニシアターでの公開としてはスマッシュヒットした『枯れ葉』なんかが好きな人は本作も気に入るんじゃないかな。
お話はオランダの片田舎が舞台で、そこは教会を中心としたこじんまりとした田舎町であった。そこで暮らす主人公は妻に先立たれて息子は家を出てから全く帰ってこないという状況。まぁタイトルにもあるように孤独なおっさんなのである。だがある日そのおっさんの生活に闖入者が現れる。生まれつきなのか後天的な病気なのかはたまた事故の後遺症なのかは分からないが、言葉を話せないおっさんがその田舎町にやってきてなぜか主人公の家に居ついてしまうのである。保守的な田舎町なのであらぬ噂が立ったりもするのだがその奇妙なおっさん二人の共同生活はどうなるか…というお話ですね。
多分50代後半くらいはいっているであろうおっさん二人のデコボコな共同生活を描いた映画なので上記したカウリスマキ作品のようなシュールでとぼけた感じのギャグは随所に入るのだが、最後まで観ると分かると思うのだが本作はギャグっぽい演出しながらも本筋は中々にシリアスな映画でしたね。
本作では宗教、それもキリスト教的世界観の均衡とそこからの越境が描かれるのだが、中々先の展開が読めずにややシュールめな日常の描写を繰り返しながらその均一な世界が僅かに綻んでいく感じが秀逸でしたねぇ。その辺の細かい描写の積み重ねというのが実に渋い映画で、本当にいぶし銀な作品だったと思う。ちょっと話は飛ぶが俺はレンタルビデオ屋に大体あるであろうヒューマンドラマというジャンルのコーナーに対して常々(何がヒューマンドラマだよ! アクションだろうがSFだろうが全部人間のドラマじゃん!)と思っていたのだが本作に関しては、いやこれはヒューマンドラマだわ、としか言いようのない人間の感情の機微とミニマムな関係性を丁寧に掬い上げたドラマでしたよ。なのでハッキリ言うと死ぬほど地味で興行的にヒットするという意味ではフックになるような要素が皆無な作品であるのだが、地味ながらも滋味に溢れたスローフードのような映画でしたね。R40くらいと言ってもいいような渋い映画だったと思う。
ぶっちゃけストーリー的にもそんなに大したことは起こらないしネタとしても見慣れた感じのものではあるんだけど、主人公がバッハしか聴かないとかそういう細かい部分の折り重なりが美しくも閉鎖的な枠組みを作り上げ、そこから解放される後半の展開が非常にまとまりがよくて寓話としての完成度が高いんですよ。みんな孤独だし他人に優しくすることは簡単ではないけど、ちょっとだけ世界を見る角度が変わったらそこには新しい風景が広がっているっていうね、それだけの映画なんだけど、それだけのことを非常に丁寧に描いているので好感の持てる映画でしたね。
ぶっちゃけここが見所! みたいな部分はない映画だけど見て損した、となることはないんじゃないかな。じんわりしみじみと、これ好きだなぁ…となる感じの映画でした。面白かった。
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