新木

ザ・キラーの新木のネタバレレビュー・内容・結末

ザ・キラー(2023年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

デヴィッド・フィンチャー最高と言わざるを得ない新作でございました!最近なかなかぴんとくる作品にまったく出会えないなかでの久しぶりの傑作の登場に心も浮かれます。
「ファイトクラブ」を彷彿とさせるOPもさることながら、そこから一気に室内(ここも「ファイトクラブ」のラストのビルみたいなところでテンション爆上がり)で座して佇む主人公のマイケル・ファスベンダーがひとり開いた窓から外を眺めている。静謐さに緊張感が迸る。64を記録した心拍数、諦観を帯びた低いトーンで説くように語られるモノローグの渋さもこの男がたいそうな手練であることを予感させる(好みの音楽はスミス)。そして幾度となく唱えられる「計画通りにやれ 予測しろ 即興はよせ 誰も信じるな 決して優位に立たせるな…」。

ここで意外だったのが、ふつうに失敗する点。ここまでプロフェッショナル感高めておいてミスるのかと(しかもそこまで難しそうな任務ではなかった)。あんなにかっこいい言葉(上述)が上滑り。なんなら、そういえばお前、心の声ではおしゃべりだなと思う気持ちもどこかで芽生えた気がします。

その失敗は最愛の人に危害を及ぼし、その後のストーリーというのは復讐のターンに移行にするため、正直対価に見合った成果を挙げられなかったかつこの世界の人たちにおいては当然の報いとも言える気は否めないのだが、それでもそこからの「キラー」としての仕事ぶりはかっこよく。そんなに悪党ではないタクシー運転手は躊躇なく殺すのに、実行犯が飼っていたやかましい犬は直接は手を下さない、白い綿棒呼ばわりされたティルダ・スウィントンとレストランで対面するなどときどきよくわからない映画を盛り上げるための行動にも出るも、クライアントはいつでも殺せることを十分に示唆して殺さないのには拍手でした。
このへんの考察は宇野維正が存分に語っており、このクライアント=Netflixに準えてその関係性を表した点を語っていたり、フィンチャーが「マインドハンター」シーズン3の制作をNetflixがお金を渋ったことで中止したことなども挙げているので、ほんと小ネタレベルで聞く分には面白いかと。ただ、そういった楽しみ方が前面に出てきてしまっている昨今の「考察ブーム」で満足する人たちがおそらく多いのは残念で、有識者の方々もキャッチーな考察に逃げるのではなく、そもそもの作品自体の完成度を(可能な限り)批評し、鑑賞者もまずは楽しむべきだと僕は強く思います(というのもNetflixと自分の関係性を比喩して作品に取り込もう、これを観客に楽しんでもらう、なんて監督は考えないと思うので)。

にしても、これはタイミング合えば映画館で観るべき作品でした。ものすごく良かったので、宇野さんの憧れほどはいきませんが、マクドナルドのマフィンからパンを除いてハムを手づかみで食すことは一度くらいしてしまうかもしれません。
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