新木

湖の女たちの新木のネタバレレビュー・内容・結末

湖の女たち(2023年製作の映画)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

吉田修一原作作品は必ず観ているのですが、監督が大森立嗣とは。嫌な予感しかしなかったのですが、可もなく不可もなく。それはそれで物足りない。
テイスト的には『悪人』に見られたような閉塞感ある地方(滋賀)を舞台に、西湖がそのもやもやした雰囲気を静謐に包み込んだ佇まいを醸す。社会的背景は、「生産性」と「人間としての存在価値」を天秤にかけるようなひとつも理解したくない、すこし前から時折メディアに散見する悲しき退廃といったところだろうか。

それぞれの立場にはそれぞれのストレスがあり、それらは下へ下へと流れ積もり積もっていく。その積もった底の位置付けに、介護施設で働く人々と西湖を重ねた描写になるのだろう。ラストで豊田かよ(松本まりか)が警察の象徴である手錠をさせられ、西湖に飛び込まさせられるシーンなんてまさに。そしてそれを助ける若手刑事(福士蒼汰)は生きづらくても死なせてくれない現代社会はさながら真綿であり、介護されるだけの老人に生きている価値がないと感じる女子中学生?や、過去の悔しさをあとの世代に受け継げられない先輩刑事(浅野忠信)には、救いも希望もない。そんななか、女性記者(福地桃子)があるタイミングに発した「世界って美しいんですかね」との言葉が、きれいに朝日が反射する湖面に波紋を立てることもなく虚しく響いた気がしました。

着地がふわっと丸投げすぎて、物語としてそれぞれの登場人物のその後の方向性をもうすこし指し示してもよいのではないか。また、本作で若手刑事の視点は不要だったように思え、もっと豊田かよが抱える内面に迫ってほしかった。彼女は別の女性とおそらく再婚した父親とも仲良くやっており、仕事にも目に見える不満はなさそうに思えた。24時間勤務中に抜け出して訪れた湖での早朝車内自慰も雨の日の追突事故なども、若手刑事に支配される理由にそこまで強くつながらなく感じる(公的な立場である警察がそんなことをやってるほうが大きなリスクであるからだ)。では、彼女はなにを抱えていたのか。私たちは湖の底を見た気になっているだけで、まだその底を見てはないのでしょう。

あと満州カットの穂志もえかがひたすらきれいだったのと、あのへんの流れとのクロスオーバーさせる試みは良かったので、そちらをもっとちゃんと膨らませて着地させてほしかったす。福地桃子は大学生の新聞サークルみたいで薬害事件を追う記者としては経験値足りず。
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