桃

PERFECT DAYSの桃のネタバレレビュー・内容・結末

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

2024年2作品目。

言葉以外での社会彫刻を感じた。

ヒラヤマさんの沈黙の心地よさ。
わたしも、周りからは意外だと言われても
かなりの口下手である。
放っておいたら全く喋らないこともある。

何も思っていないかというとそうではない。
何を発するのか選びたかったり
言葉になる前の感覚で遊びたかったり。

言語化ばかりに頼らず生きることにも
豊かさが宿る。と思う。
少なくともこの映画のヒラヤマさんは
そう感じさせてくれる。
表現方法は口語だけではない。

和尚さん、カメラ屋さんとのほぼ言葉無しの会話も心地よさを感じた。
古本屋とのコミュニケーション、店主が熱弁し、ヒラヤマさんが本を手に表情だけで返す。ある意味、ちいかわみもある。

いつものお店に通い続けること
影踏みで目の前の人を励ますこと
好きな作品を通して心を通わせること
それらだってコミュニケーションである。

そもそも
ヒラヤマさんは多趣味だ。

写真、テープ集め、植木、読書
それぞれ、どれだけの継続をされているか
映像だけで伝わる。

彼の部屋に誰も上ろうとも
上がらずとも
それらの豊かさは変わるものではない。

個人的な話としては、
去年に「1人遊び」を研究テーマとして
今年は「自己満足」をテーマと考えており
誰かとシェアせずとも
ただ自分がしたいから
自分と会話するような
営みを大事にしたいと
ヒラヤマさんをみて思った。

お気に入りの現像写真を缶に残し
微妙な写真を破り捨てる工程
誰のためでもなく
自分のためだけのものであることに
尊さがあった。

作品内でのメッセージについて話を移すと、

スナックのママが呟いた
「どうしてずっと同じではいられないのかな」
という一言や
影を重ねて濃くなるのか実験するシーンで
「同じな訳ない」
とヒラヤマが珍しく語気を強めるなど、
全ては一回だということが繰り返し主張されていた。

極め付けは、ラストの
木漏れ日に関する説明。

影や光の移ろい。
昨日まで会えた友人と
次の日にはもう会えない現実。

あと、
忘れてはならないのが
もともと今回鑑賞のきっかけとなった音楽について。

ニーナ・シモンのfeeling goodを
友人がインスタストーリーで使われていて
そこへのコメントをして映画の存在を知った。

ニーナ・シモンのfeeling goodは
フランス映画の「最強のふたり」でも
非常に印象的なシーンで使われている。
大好きな曲だ。
(カバー曲まで言及し出したら、止まらなくなるため、ここで止めておく)

カセットから流れる
60〜70年代ブルース

ストーンズ、パティ・スミス、オーティス・レディングなどなど
カセットテープで
ジャニス・ジョプリンがみえて、
「かけろ〜かけろ〜」
と念を送ってきました。

残念ながら流れなかったですが。

控えめに言って最高でした。
ヒラヤマさん現実にいたら
友達になりたい。


最後に、
役者さんについて。

田中泯さんの贅沢使いにはびっくりでした。
そして役所さんの笑顔がラブリー過ぎる。
カンヌ男優賞受賞、おめでとうございます!
桃