ももも

PERFECT DAYSのももものレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.3
自閉症の映画だと思った。食に関心を持たず、誰とも深く関わらず、決まった手順で生活をこなし、貧しい感情表現を頼りに「違う世界」を生きる人。

登場人物のほとんどは、寡黙な主人公の決して直接には語られることのない過去の姿をそのまま表しているように思える。母親と離れ離れになり、トイレにこもって泣く少年、妻に逃げられたあと、酒を飲んで強がる男、癌を患い自分の死期を悟りつつある男、友人に置き去りにされて戸惑うダウン症の男の子。
(特に女性の登場人物について、彼女たちが主人公に示す強い好感を、勘違いしたおじさんのズレた欲望と解釈することはもちろん可能だと思う。「ベルリン・天使の詩」に関しては、自分自身もそういう感想を持った記憶がある。ただぼくは、この映画において主人公に対して否定的な反応を示すのは「母親」だけである、という点に注目したいという気持ちがある。)
主人公の「丁寧な生活」は、決して快適なものではなく、むしろ苦痛に満ちた防衛反応の連続なのだと思う。そうすることでしか、自分を守れないのだ。「シフトが崩れた」ときに主人公が見せる意外なほどの激しい苛立ちが、そのことを証立てている。
そして、その事実を、登場人物の誰も知らない。知っているのは、観客だけなのである。

この映画は、架空の世界、あるいは想像の世界を描いたもので、そこに映っているのは現実の東京ではないし、現実のトイレでもない。そのことを批判することは当然可能だと思う。ただ、ぼくは、その架空性、想像的なものしか存在しない世界のあり方が、それを作り上げることでしか生きられなかった主人公の苦境を反映しているように思えて、その点に個人的に共感してしまって、きらいになれなかった。
笑顔と泣き顔が何度も交替する、というよりもむしろ混濁していくラストシーンは、「新しい日」の「いい気分」を歌い上げるBGMとは反対に、絶望的な感情を表現しているように見えた。
ももも

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