このレビューはネタバレを含みます
オウムをヒントにしたというカルト教団「真理の箱舟」が起こした殺人事件から3年経った状況。遺族達をドキュメンタリータッチで追うことで、鑑賞者に問う形をとっている。
主な場面は上九一色村と精進湖を参考にしたのだろう。
カルト教団モノといえば山本直樹原作の「ビリーバーズ」でかなりがっかりしたので、どうかなと思ったが、是枝監督は安直にステレオタイプには傾かない。あるいは「安直に撮らない」と決めて臨んだのかもしれない。
本作でも教団関係者が日常で唐突に「価値観の転倒」が起こり、現世を否定するが如くの、一般人と裂け目が出来る空気を描いているが、ここは普段から宗教を意識しない「素の人間」特有の、理解が出来ないから決めつけて見るような描写で、カルト宗教にも「信じるに足りる」深さがあることを理解してから撮るべきであったろう。
「ビリーバーズ」同様にこういった、乱暴に言ってしまえば「カルト教団には頭のおかしいやつがハマるのだ」という的外れでアウトサイダー的な視点で描いてしまえば鑑賞者が「やっぱりそうなんだ」と誤解の裾野を広げる悪に結論として加担してしまうことも意識してほしかった。
今の時代に「宗教」は実は非常に大切なのだから。
そして2024年現在は30年前のオウム事件の頃とは世間の様子が違い、「ネットカルト民」が大量発生してしまっている。更に状況が悪化してしまっている。
「カルト」や「カルト的なモノ」は元々日本人がハマりやすいので、視点や切り口を変えて「おっ!」と思わせる作品を是枝氏に限らず期待したいものだ。
「幻の光」以来の浅野忠信も出演しているが、そぐわしい役柄ではないと思う。