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13th 憲法修正第13条のtomoのレビュー・感想・評価

13th 憲法修正第13条(2016年製作の映画)
4.3
BLM運動や差別問題に対する感度がイマイチ鈍い日本人に是非見てほしい。日本では「罪を犯した以上厳しく罰せられて当然」「被害者のことを考えれば日本の法律と裁判は犯罪者に甘すぎる」「疑われるような行動や容姿をしているなら職質を受けるのも仕方ない、向こうも仕事なんだから、後ろ暗いところがないなら協力すればいい」「刑務所での人権ガー差別ガーとか言うな、犯罪を犯したんだから多少の不利益は当然」「仮に警察の取り締まり行為に多少行き過ぎの部分があったとしても、そもそも取り締まられるような行動や疑われるような行為をしなきゃいい」といった意見が多い(ように感じる、特にネットニュースを見ていると)。御説ご尤もだが、アメリカの黒人差別問題はそんなに簡単に割り切れるものではない。そもそも植民地の奴隷貿易の歴史の中で、故郷アフリカから家畜同然に拉致され身動き取れない劣悪な環境で「輸送」されプランテーションで強制労働させられたのがアメリカにおけるアフリカ系黒人の背景である。突然の暴力により本人の意思も権利も完全無視で遠い外国に拉致してきてこき使われていた人たちが、南北戦争後「奴隷制度はやめましょう」と権利も生活の術もろくに与えられず急に投げ出され、しつこく残る差別も相まって世代を経ても貧困の連鎖からなかなか抜け出せず苦労している。そうした背景を多少なりとも知っていれば、アファーマティブアクションという一見逆差別のような発想が生まれた背景もわかるし、「だって実際黒人の犯罪率多いじゃん」などと軽くいえないはずなのだ。百歩譲って、犯罪を犯した以上は刑罰が厳しくても仕方ないという理屈になったとしても、それならせめて捜査も逮捕も投獄も人種民族に関わらず平等に課してくれよという話なんだわな。結局意識無意識問わず差別により一段悪く扱われてるのはいつも有色人種でしょという。
日本よりずっと人権意識が強いアメリカですら、このような組織的・構造的な差別の仕組みが厳然と残っていることに驚きを禁じ得ない。「かわいそうだ」とかいう次元の話ではない。感情や思想を一切抜きに考えたとしても、多すぎる収監者や留置者のせいで制度上の不備が出ているなら対応を考えてくれよ。
差別された経験に乏しい島国育ちの日本人には大変有益な問題提起である。
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