身勝手な太陽

寝ても覚めてもの身勝手な太陽のネタバレレビュー・内容・結末

寝ても覚めても(2018年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

 映画全編の中で、ある人物の突然の行動に嫌悪感を感じた人が多いと思う。だけどその原因を作ったのは、目の前から突然ふらりといなくなった男であり、それが突然戻って来て決定的な一言を言い、それを否定することができない現実が目の前にあったから。だから発作的に掴んではいけない方の手を掴んで走り出してしまったが、「目が覚めて」本当に好きな人の元へと走る・・・。
 とてもシンプルなストーリーと、決して多くはない登場人物たちが少しの無駄もなく動き、冒頭の写真展に登場する牛腸茂雄の写真さえも、その後に起きる出来事への暗喩が含まれている。

【追記】

 ちょっとイラっとする記事が出てたので、朝子の言葉に関して書いてみる。

テレビマンに今年ブレイクしそうな女優を訊ねると…昨年活動再開した意外な人の名が
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/01241105/

・イラっとポイント①
> 舞台は大阪ですが、関西弁もいまひとつでした

 舞台は大阪、東京、宮城県名取市閖上などです、新潮はもっと慎重に記事を書くべきだ。

 大阪にいる時にも標準語だったり、東京に来てからも関西語だったり、ころころ変わる朝子。だけどよく見ればそこには法則性があるという考察。

① 同調型、親密度によってさらに同調率が上がる
 基本形がこれ。麦は北海道出身で関西語を話さないので、麦と話す朝子も標準語に同調して話している。もちろん出会った瞬間から同調率100%である。
 亮平は関西語圏の姫路出身で、関西語しか話さないが、朝子との親密度が低い頃は、朝子は亮平と標準語で話している。しかし震災以降、二人の親密度が一気にアップすると、朝子も関西語で話すようになった。簡単に言えばミラーリング。

② 感情的になった時、その感情の大きさで関西語レベルも変化
 感情的になると生まれ育った土地の言葉は自然と出るもの。なので関西語圏の朝子も感情的に関西語でまくし立てる。パンを買いに行って翌朝に帰ってきた麦に「そんな事言うてんのとちゃう!」と怒りながら泣きべそをかくシーンや、マヤの演技に対して言いたい放題の串橋への朝子の反論も関西語であったが、少しだけ冷静さを取り戻したのか、途中から標準語風に変わっていた。

③ その他
 栄子さんや平川さんなど、目上の人に対しては標準語。ジンタンにも標準語。ウニミラクルの店員としての朝子も標準語。気心が知れたマヤ、関西語の春代には関西語。

④ 約8年間という時間経過、重ねた時間と揺れ動いた朝子
 麦との別れのシーンでは「高速降りたの?」と標準語で聞いた後、急によそよそしく切り替わり関西語で話し始める朝子。亮平との思い出の中でも「高速降りたん?」と口にしたことがある朝子だからこそ、ようやく夢から覚めて亮平の元へと走る。
 ドア越しのやり取りでの朝子は、標準語とか関西語とかすべて一つに集約されたような強烈なメッセージを発して亮平の心を動かし、再び二人と一匹で生きていく事になった。

・もうひとつのイラっとポイント
> 共演の伊藤沙莉(28)の演技に圧倒されてしまっています。

 子役時代から数多くの作品に出演している伊藤沙莉と、本格的な演技経験が初めてという唐田えりかを比較するのがおかしい。そもそも監督の濱口竜介らがオーディションで唐田えりかを朝子役に選び、カンヌ映画祭コンペ部門に出品し喝采を浴びている。
 どこのテレビマンだか知らないが、よく考えたらわかりそうなものだ。伊藤沙莉が朝子役をやるような映画ではないのだから。むしろ、不安定に揺れ動く朝子が唐田えりかだった事が魅力なのだから。
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