TOSHI

さよならくちびるのTOSHIのレビュー・感想・評価

さよならくちびる(2019年製作の映画)
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ヨコハマ映画祭ベストテンが発表され、1位「火口のふたり」、2位「蜜蜂と遠雷」、3位「愛がなんだ」となったが、唯一観ていなかった本作(10位)を観賞した。

日本映画は、集客が計算できて演技力を兼ね備えた俳優が限られるために、「この俳優とこの俳優の組み合わせはまだない」という発想で、キャスティングが決められている感が強い。それは大体、男性と女性の組み合わせだが、本作の小松菜奈と門脇麦という女性同士の組み合わせも、そんな発想で決められているように思える。若手実力派の二人だけに、ちゃんと“映画”になる事は間違いないだろうが、どの程度のケミストリーが起こるのかが焦点だ。

高架下に止められた車に乗り込むハル(門脇麦)、後部座席にはレオ(小松菜奈)が座っている。何やら険悪な雰囲気だが、運転するシマ(成田凌)が、「本当に解散の決心は変わらないんだな」と確認する。二人は人気インディーズデュオであるハルレオで、全国のライブハウスを回る最後のツアーに出ようとしていたのだ。シマは、マネージャー兼ローディーだ。デュオのイニシアティブは、才能に恵まれるハルにあり、レオはハルの置物的存在である事に不満があるようだ。

ツアーは初ライブの地である、静岡・浜松から始まるが、レオは行きずりの男の車で別行動し、時間に遅れて来たかと思えば、目の周りにアザを作っている。彼女はいつもそんな男と付き合ってきたようだが、暴力を振るわれても会場に来たのには理由があった。デュオ結成当時の、エピソードが良い。レオが歌いたそうな目をしていたというハルのセリフに、ハッとする。
ツアーを続けるにつれ、断絶していた筈の二人の心理に揺らぎが見え、そこにシマの二人のそれぞれへの想いが絡むが、ツアーが終わった時に二人は…。

最も印象的なのは、ハルが想う歌詞が画面に言葉として浮かび上がる演出だ。言葉に依存していたのでは映画ではないが、感情を揺さぶられる言葉があくまでも映像として表現される。
良い映画なのは、確かだ。しかしトータルでは、想定を超えて来なかった。門脇と小松のアウトサイダー的な人物の表現は、商業映画として非主流のようで、主流に取り込まれてしまっているように感じた。生まれるケミストリーも、驚くような物ではなかった。また作中でハルレオが歌う3曲の楽曲を、秦基博とあいみょんが提供しているが、これもグッと来るものではなかった。主題歌を秦が担当するが(タイトルは、別れてキスできなくなる恋人の唇の事だ)、あいみょんの世界観で統一した方が良かったのではないか。劇場で観るべき作品だと思いつつ、観なかったのは、この辺りを嗅ぎ取っていたからだと思う。
現在の新作に最も多いのは、“想定を超えて来ない良い映画”であり、年間ベストテンの10位辺りは、そんな映画が位置するのかも知れない。
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