TOSHI

ラストレターのTOSHIのレビュー・感想・評価

ラストレター(2020年製作の映画)
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学生時代に愛した女性を、20年以上経っても想い続ける男。良いねぇ。過去が舞台の映画には感心しないが、過去を引きずり続ける人を描く映画なら大歓迎だ。以前にも書いたが、私が追い求めている映画の一つは、ロマンティック、ノスタルジック或いはセンチメンタルに振り切った情緒的な映画であり、そんな予感が溢れている。岩井俊二監督がこういった映画を撮るとなれば、期待感が更に高まる。

裕里(松たか子)の姉の未咲が亡くなり、裕里と娘・颯香(森七菜)は実家に帰るが、そこで両親と共に暮らす未咲の娘・鮎美(広瀬すず)を心配した颯香は、夏休みの間一緒に過ごす事にする。裕里は鮎美から、未咲宛の高校の同窓会の通知を預かり、亡くなった事を伝えるべく出席するが、生徒会長だった未咲と間違われ、スピーチまでしてしまう。そして帰ろうとすると、鏡史郎(福山雅治)が追ってきて、LINEを交換する事になる。鏡史郎は、小説家をしているという。鏡史郎からの「今でも君を愛していると言ったら信じますか」というLINEを見た、裕里の夫(庵野秀明)は怒って、スマホを風呂に投げ込んでダメにしてしまう。ここで、現代ではめっきり少なくなっている、「手紙のやり取り」が説得力を持ってくる。

裕里が、もらっていた名刺の住所に手紙を出すと(夫に見られるとまずいため、自分の住所は記載しない)、鏡史郎は卒業アルバムにあった未咲の実家に返事を送る。すると実家にいた鮎美と颯香が面白がって、未咲になりすまして返事をするという、こじれたやり取りが続く。更に裕里が、ある事がきっかけで知り合う事になった老人男性の住所を借りて手紙を出すと、鏡史郎が会いに来る。
実は裕里は高校時代に、鏡史郎から姉の未咲から、ラブレターを渡すように頼まれていたのだ(この辺りは、予告編でも分かるだろう)。裕里は、未咲が亡くなった事を告げる…。

透明感のある映像美で、現実を描いているようで現実から浮遊させた、岩井監督ならではの作品だ。高校時代の、未咲と鏡史郎(学生時代は、神木隆之介)の回想が瑞々しい。結婚もせず女々しく未咲を想い続ける鏡史郎は、現実にいたら気持ち悪い存在とも思えるが、この作風がフィクションとして昇華させる。個人的にはもっとウェットでベタベタなメロドラマでも良かったのだが、岩井監督ならこういった作風になるのだと納得した。
未咲がその後、送った人生がショッキングだが、裕里と鮎美、そして亡くなった未咲の鏡史郎への想いが明らかになり、それぞれが抱えた心の重しが解かれ、少し前を向くラストが感動的だ。

本作は岩井監督の、中山美穂主演「Love Letter」や、松たか子主演「四月物語」のアンサームービーとも言えるが、新鮮な感動を覚えた両作から長い年月が経った今、同じ出演陣で、こういった作品が観られるのは感慨深い。中山美穂・豊川悦司の、Love Letterコンビの役柄も見物だ。最早この二人では、透明感のある岩井ワールドは作れないという事実を逆手に取った演出がされている。

手紙のやりとりが殆どなくなり、ラブレターという言葉も死語になっている今、字体に現れる人間性や、着くまでに相手に思いを巡らせる気持ちなど、手紙によるコミュニケーションの優れた部分を、映画ならではの映像体験として現代に蘇らせた、愛すべき作品だ。
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