TOSHI

SHADOW/影武者のTOSHIのレビュー・感想・評価

SHADOW/影武者(2018年製作の映画)
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私は、この時代に時代劇を撮ろうとする作り手を、決して褒めたくは無い。現代が抱える問題、価値観の変化を追及する事を放棄し、大昔にあった様式美に、依存しているように思えてならないのだ。本作も、三国志の「荊州争奪戦」を基にした、時代劇である。しかし、これは凄い映画だった。

戦国時代、沛国は、敵対する炎国に領土であった境州を奪われ、若い王(チェン・カイ)は、屈辱に甘んじていた。重臣である都督(ダン・チャオ)は、領土奪還を願う官僚達を束ねていたが、炎国の将軍・楊蒼(ヤン・ツァン)に手合わせを申し込み、王は勝手な行動に怒る。だが王の前にいる都督は、影武者だった。本物の都督(ダン・チャオ二役)は、影武者に対して、敵地での大軍との戦いを命じていた。都督は影武者が生き別れた母親を境州で見つけており、境州を奪還すれば、母親と自由に暮らせると吹きこむ。都督の妻であるシャオアイ(スン・リー)の、憂いを湛えた佇まいに惹かれるが、境州が戻るまで琴を弾かない誓いを立てていた彼女が、王から夫との合奏を強要され、止むなく演奏するシーンが、インパクトがある。

チャン・イーモウ監督は、美意識の高い映画を撮るが、本作は突出しており、完璧な構図に基づく、水彩画のような映像が圧巻である。モノクロのフィルムとはまた違う、デジタルでしかできない、カラーなのに水彩画風の映像は、これだけでも観る価値がある。陽の存在と陰の存在の対立を表す、光と影のコントラストも見事だ。ハリウッド大作であった前作「グレートウォール」は、CGで水増しされた兵士など、全体が張りぼてのような印象があったが(私は映画は作り物だから魅力的だと考えているため、それはそれで支持する)、今回はタッチが全く違い、映像自体が生きているかのようだ。

王から一般市民にさせられた、影武者は単独で戦を起こす決意を固める一方、王は戦を避けるため、妹を楊蒼の息子に嫁がせる計画を進める。そんな中、影武者とシャオアイは結ばれるが、戦いの結末は…。忍者が使いそうな、鉄の傘によるアクションも見所だ。

本作の現代に対するメッセージは何かと考えても、よく分からないし、(終盤に二転・三転はあるものの)ストーリーも驚く物ではない。しかし映像表現である映画に最も重要なのは、メッセージやストーリーではなく、力のある映像なのだ。力のある映像の積み重ねこそが、映画なのである。そんな映画の醍醐味を、堪能できる一作だ。
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