TOSHI

アスのTOSHIのレビュー・感想・評価

アス(2019年製作の映画)
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ジョーダン・ピール監督の前作、「ゲット・アウト」は、凡百のホラー映画とは一線を画す、斬新な作品だった。私はホラー映画を積極的に観たいとは思わないが、映画ファンとして避けて通れない、本物の映画だと思えば観る。よって本作も、迷わず観賞した。

1986年、テレビでは、多くの人々が手を繋ぎ、一本の線を作り出している様子が映されている。ホームレス等恵まれない人々への支援金を集めるための、「ハンズ・アクロス・アメリカ」と呼ばれた活動だ。
少女アデレードは、サンタクルーズのビーチにある遊園地を訪れ、両親から離れて一人、ミラーハウスに入るが、自分の生き映しのような少女と出会い、ショックを受ける。

現在、夫のガブリエル(ウィンストン・デューク)、ゾーラ、ジェイソンの二人の子供と暮らすアデレード(ルピタ・ニョンゴ)は、サンタクルーズのサマーハウスを訪れ、幼少期の記憶から嫌がりながらも、ビーチに出かける。一家は、友人のタイラー一家と落ち合うが、停電が起こり、玄関先に、赤い囚人服を着た4人の不審者が立っている。4人は、アデレード一家にそっくりだ。

「イット・フォローズ」(デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督)の、人のようで人ではない“それ”がやって来る描写も怖かったが、本作の“私たち”がやって来る描写は
それ以上だ。4人は私たちのようで、私たちではない。アデレードのドッペルゲンガー・レッド(ルピタ・ニョンゴ二役)の、しゃがれた声が不気味だが、押し入って来た4人により、一家は恐怖の坩堝に陥って行く…。

私がホラー映画をなるべく観たくないのは、観客を驚かせるショッカー演出が目的化した作品が多く、トラウマだけが残り、映画としての満足感は得られないからだが、「ゲット・アウト」と本作を観ると、ホラー映画とは、何を描くべき物なのか、考えさせられる。「ゲット・アウト」は、現代の人種差別をホラーとして描き出した作品だった。そう、映画が描くべきなのは、大昔の激しかった差別ではなく、無くなったようで、今でも根強く残る差別なのだ。現代人の人種に対する心理を掘り下げた事で、独創的なホラー映画となったのだ。
本作が隠喩的に描いているのは、広がるばかり社会的格差だろう。ドッベルゲンガー「デザード(囚われた者)」の正体には、“負け組”の想いが託されていると感じた。現代人の一番の恐怖とは、地獄としての人生から抜け出せない、負け組としての自分と向かい合う事だろう。
今作られるべきホラー映画とは、現代人の深層心理を抉り出す事で、恐怖を具現化した作品なのだ(ホラー映画の形を取らなくても、映画が追求すべきテーマだ)。
ゲット・アウトの不満点は、一応のハッピーエンドに終わった事だったが、本作の、恐怖がアメリカを覆い尽くすラストには満足した(USとは、私達だけでなく、アメリカを意味するようだ)。映画の優劣は、ジャンルで決まるのではなく、作り手の視点・力量次第で決まるのであり、ピール監督のホラー映画なら、追い続けたいと思う。
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