TOSHI

台風家族のTOSHIのレビュー・感想・評価

台風家族(2019年製作の映画)
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草彅剛主演の、家族による遺産相続をテーマにした映画という事で、上限は見えているかと思ったが、やはり映画は実際に観てみなければ分からない。想像を超えた、ブラックな映画だった。

紙袋を覆面代わりにした老人が、銀行の支店で2000万円を強奪し、止めてあった霊柩車で逃走する。犯人・鈴木一鉄(藤竜也)の息子、小鉄(草彅剛)は、マスコミから追われ、会社も辞めざるを得なくなる。
10年後、台風が近づく日に、小鉄は妻・美代子(尾野真千子)、娘・ユズキ(甲田まひる)と共に、車を走らせている。一鉄と妻・光子(榊原るみ)の葬儀に参列するためだ。しかし死体は見つかっておらず、失踪から法律上、死亡が認定されたため、形式的な葬儀をし、兄妹で財産分与をするのが目的だった。小鉄は少し前に、勤務中に玉突き事故に巻き込まれ、頭に包帯、首にはサポーターをしている。

映画の導入としては面白く、迫り来る台風の予感が良い。程なく、長女の麗奈(MEGUMI)がやって来て、住職による、形式的な葬儀が始まる。そして遅れて、小鉄とは仲が良くなかった次男の京介(新井浩文)も参列する。
事件に関する、本作の経緯を忘れていたため、「新井浩文に似た俳優だな」と思ったが、本人と気付いて驚いた。表舞台に出られない筈の人が出演しているというのも、これもまた映画である。
フリーターである末っ子の千尋(中村倫也)が姿を現さないまま、葬儀は続けられ、葬儀後に3人で財産分与の話し合いを始めた時、茶髪のチャラい男が訪れる…。
犯罪者の家族という意味では特異性があるとしても、遺産相続のドラマは昔からあるが、一転するのは、千尋が登場してからだ。現代ならではの怖さが襲って来る。
そして、次第に露わになる小鉄の本性に唖然とさせられる。前事務所の時代はNGだったであろう、草彅のゲス男ぶりは、予定調和を超える。
これをやったら、今後は真面目な人の役のオファーは来ないだろう。まさか、元SMAPの香取慎吾(凪待ち)も草彅剛も、ゲス男役で食っていく事になるとは思わなかった。
何故、一鉄は銀行強盗後に失踪したのかが焦点だが、終盤の、映画史上かつてない“追跡劇”に唖然とさせられる。そしてその先に、不思議な感動が訪れる…。

事件で公開には批判があったらしく、出演者の中にも本心では、新井と共演している作品など、公開してほしくないと思っている人もいるだろう。しかしこれは、親子愛をブラックユーモアを交えて描いた、ユニークで世に問う価値がある作品であり、新井のスクリーンにおける存在感も、否定できない物があった。
様々な意味で、今年の日本映画の中でも、必見の作品である。
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